社会にインパクトのあった研究成果

農林水産省農林水産技術会議事務局は、農業技術クラブの協力を得て「農業技術10大ニュース」を選定しています。これは、各年に新聞記事になった研究成果(独立行政法人研究機関、公立試験研究機関、大学及び民間の研究成果)の中から、内容に優れ、社会的関心が高いと考えられるもの10件を選定するものです。2020年は、農研機構が中心及び共同で行った研究成果が8件選ばれました。

農林水産研究成果10大ニュース 2020年選出

判断の根拠を説明できるAIを開発
-生産者も納得の病害診断に活用-

【写真】 ジャガイモの葉の画像の病気診断の例

病害虫による農作物への被害は深刻です。我が国では、農業害虫であるウンカによるイネの坪枯れ等の被害が発生し100億円を超える被害が生じる年があります。その対策を支援するために、AIを活用した病害虫の自動判別システムの開発が進められています。

農研機構は従来のAI技術では困難だった、AIモデルが学習した特徴や学習に基づく判断根拠を可視化する技術を開発しました。AIによる病害診断において、診断の根拠となる画像の特徴を可視化でき、人間がAIの判断の根拠を理解することができます。農業分野を始め、根拠を説明できるAIが必要な広い分野での活用が期待されます。

赤色LEDでアザミウマ防除
-施設栽培の化学農薬削減に貢献-

【写真】赤色LEDによるアザミウマ類防除マニュアル表紙(画像をクリックするとマニュアルページへ移動します。)

農業生産現場では、殺虫剤の効かない害虫が出現しています。重要害虫であるアザミウマ類においても殺虫剤抵抗性の発達と対策が課題となっており、減農薬に繋がる新しい防除技術の開発が求められてきました。

地方独立行政法人大阪府立環境農林水産総合研究所、農研機構、静岡県農林技術研究所及び株式会社光波の研究グループは、赤色発光ダイオード(LED)でアザミウマ類を防除する技術を確立しました。施設栽培のナス、キュウリ、メロンのミナミキイロアザミウマに対して効果が高く、化学農薬の使用削減につながる新手法として期待されます。

身近な事例で実感!農作業事故事例検索システムを公開
-実効性のある安全対策の実施を強力にサポート-

【写真】 農作業事故事例検索システム(画像をクリックすると農作業事故事例検索システムページへ移動します。)

農作業死亡事故は、2018年には全国で274件発生しています。これは就業者当たりの死亡事故発生割合でみた場合、他産業と比較して大変多く、長年大きな問題となっています。

農研機構は、様々な農作業事故事例とその原因・対策をWEB上で閲覧できる、農作業事故事例検索システムを開発、公開しました。個別の事故報告の原因や改善策の詳細な分析により、農作業現場に潜在する危険な箇所や対策などの情報を得ることができます。これまでの注意喚起に留まらない、実効性のある安全対策の検討と実施が可能となります。

安全に手軽に!田んぼダムで豪雨対策!!
-減収させない湛水の目安と安価な水位管理器具の開発-

【図】 減収尺度に基づいて策定した許容可能な湛水管理条件の例

全国各地で豪雨に伴う洪水被害が発生していますが、将来は気候変動等の影響によってさらに洪水のリスクが高まると予測されています。ダム等の施設整備も重要ですが、その対策には多大な時間と費用がかかります。

農研機構は、豪雨対策として水田が持つ雨水の貯留機能を活用するため、水稲の減収を抑えられる湛水深とその継続期間の目安を明らかにしました。同時に、安価で手軽に設置できる水位管理器具を開発しました。農家を中心とした地域一体で取り組む豪雨対策に繋がり、下流の農地や周辺住宅などへの被害軽減効果が期待されます。

イネの茎伸長において相反する機能を持つ2つの遺伝子を発見 -イネ科作物の草丈制御に活用-

約50年前に日本人の研究者らによって、茎伸長の開始を制御する因子の存在が提唱されていましたが、その実態は未解明のままでした。

名古屋大学、岡山大学、横浜市立大学、情報・システム研究機構国立遺伝学研究所、理化学研究所、農研機構は、イネの茎伸長において相反する効果を持つ2つの遺伝子を発見しました。伸長促進効果をもつACE1遺伝子と抑制効果をもつDEC1遺伝子による茎伸長の制御メカニズムはイネ科植物に共通しており、本研究成果はイネだけではなく、コムギやオオムギなどのイネ科作物の草丈を人為的に制御する技術への応用が期待されます。

農業用水路がヒートポンプの熱源に!
-流れの中にシート状熱交換器をおくと熱交換効率がアップ-

【写真】 シート状熱交換器

農業施設では、空気中や地中などから熱交換して冷暖房や除湿を行い、エネルギー消費とランニングコストを削減する技術として、ヒートポンプが導入されています。現在は熱交換器を空気中や土中に設置する方式が主流ですが、近年ではより交換効率の良い、水中への設置について研究が進められています。

農研機構は、シート状熱交換器を流水中に入れると、土中や静水中に比べて効率よく採熱できることを解明(静水中設置の約2.5倍、土中設置の約15倍)しました。農業用水路をヒートポンプの熱源として有効利用でき、農業用ハウスの冷暖房で消費するエネルギーの削減やランニングコストの削減が期待されます。

AIによる温州みかん糖度予測手法を開発
-適切な栽培管理への活用に期待-

高品質な温州みかんを生産するためには、摘果や水管理、施肥など様々な管理が必要です。このため、その年の糖度をできるだけ早い時期に予測できれば、これらを適切に行うのに大きく役立ちます。

農研機構は、膨大なデータを学習したAIと、前年までに蓄積された糖度データと気象データから、温州みかんの当年の糖度を予測する手法を開発しました。出荷時の糖度を地区単位で7月ごろから高精度に予測できます。適切な栽培管理が可能となり、温州みかんの品質の向上に役立つことが期待されます。

水稲に被害を及ぼすフェーンの発生を3日前に予報
-白未熟粒の発生低減へ-

【図】 水稲フェーン被害注意情報の例 ※黄色はフェーン被害の可能性のある領域、赤は被害の危険性がある領域を示す。

水稲が登熟前半の米の肥大期に高温乾燥の強風であるフェーンを浴びると、白未熟粒の発生により品質が低下します。

農研機構は、領域気象モデルを用いた気象予報を基に3日先までの水稲のフェーン被害が予測される場所を1kmの解像度で解析、表示するシステムを開発しました。現在、九州地方を対象に農研機構の栽培管理支援システムから情報発信しており、今後、北陸地方への導入も予定されています。