社会にインパクトのあった研究成果

農林水産研究成果10大トピックス 2012年選出

高温で乳白粒が発生する原因を遺伝子レベルで解明-高温登熟耐性品種の開発に期待-

猛暑で乳白粒が発生するメカニズム 近年の温暖化によって、我が国の水稲生産において高温登熟障害が問題となっています。高温登熟障害とは、日本のイネが登熟期に高温に遭遇すると、白米部分が白く濁ってみえる乳白粒が多く発生する障害です。

そこで、(独)農研機構中央農業総合研究センター、新潟大学農学部と(独)理化学研究所は、乳白粒の発生原因が、デンプンを分解する酵素、-アミラーゼの高温による活性化であることを明らかにするとともに、遺伝子の発現を抑えて-アミラーゼの働きを抑制すれば、乳白粒の発生が減少することを示しました。今後は、高温でも乳白粒を生じにくい、温暖化に強いイネ品種の開発が期待されます。

本研究は、農林水産省委託プロジェクト「新農業展開ゲノムプロジェクト」において実施されました。
植物ホルモン分析は、最先端研究基盤事業「植物科学最先端研究拠点ネットワーク」の支援を受けました。

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トマトの全ゲノム解読に世界で初めて成功!-育種の加速に期待-

論文が掲載されたNature 2012年5月31日号の表紙トマトの品種改良技術や栽培技術の飛躍的向上を目指すためには、生物としてのトマトの基本的な仕組みを深く理解することが必要です。

(財)かずさDNA研究所と(独)農研機構野菜茶業研究所は、国際トマトゲノム解読コンソーシアムの一員として参画し、トマト全ゲノムの解読に大きく貢献しました。本研究により、トマトゲノム中に約35,000個の遺伝子が見つかりました。

今後は、ゲノム情報と形質の関係を明らかにすることにより、トマトの品種改良や栽培法の画期的な新技術へとつながる成果が数多く得られるものと期待されます。

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汚染された農地土壌からセシウムを99%除去-汚染土壌等の大幅な減容化に期待-

福島県内の放射性物質に汚染された農地土壌を、復旧・復興用土工資材等に利用するためには、含有する放射性セシウムを分離・除去する必要があります。

(独)農研機構中央農業総合研究センター、(独)国際農林水産業研究センター、太平洋セメント(株)、日揮(株)、東京電力(株)は、反応促進剤を加えた熱処理により、汚染土壌から土工資材等に利用可能なレベルまで放射性セシウムを分離除去する技術を開発しました。本成果を活用した汚染土壌等の大幅な減容化が期待されます。

本研究は、平成23年度「除染技術実証試験事業」(内閣府から独立行政法人日本原子力研究開発機構への委託事業)において実施されました。

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牛の分娩後に胎盤を剥離排出するシグナル物質を世界で初めて発見!-子牛生存率の向上や畜産農家の労働負担軽減に期待-

牛の分娩は昼夜を問わず起こります。深夜の分娩に立ち会えない場合も多く、適切な分娩介護ができずに新生子牛が死亡するケースが多く見られ(年に約5万頭の損失)、時には母牛まで失うこともあります。

(独)農研機構畜産草地研究所、(地独)北海道立総合研究機構農業研究本部根釧農業試験場・畜産試験場、(株)共立製薬は、牛胎盤を剥離排出するシグナル物質を世界で初めて発見しました。さらに共同研究により従来の分娩誘起法にシグナル物質を投与して、胎盤剥離処置を追加することで昼の時間帯での胎盤停滞のない分娩誘起に成功しました。これにより、昼に適切な分娩介護が可能になり、子牛の生存率の向上や畜産農家の深夜の分娩介護のための労働負担を軽減することが期待されます。

本研究は、文部科学省科学研究費補助金、生物系特定産業技術研究支援センタープロジェクト「イノベーション創出基礎的研究推進事業」において実施されました。

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青刈りトウモロコシ用高速不耕起播種機を開発-飼料用トウモロコシの栽培の省力化に期待-

開発機の構成青刈りトウモロコシの不耕起栽培の普及は伸び悩んでいます。その要因として、我が国で利用されている海外製の不耕起播種機が大型で重く、小規模なほ場には適していないことが挙げられています。

(独)農研機構生物系特定産業技術研究支援センターは、アグリテクノ矢崎(株)と共同で小型トラクターに装着でき、作業速度が速く、不耕起栽培に対応する青刈りトウモロコシ用不耕起播種機を開発しました。平成24年度中の市販化により、今後の青刈りトウモロコシ作付面積の拡大が期待されます。

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有機質資源を短期間で無機化、エネルギーを必要としない新技術-CO2排出量の大幅な抑制に期待-

微生物担体を利用した無機肥料製造法無機肥料は速効性に優れた肥料ですが、天然で産出するものはわずかなため、事実上、化学肥料として工業的に製造するしかありませんでした。化学肥料は製造時に大量のエネルギーが必要であり、原料となるリン鉱石やカリ鉱石は資源量が限られているため、持続可能な技術への転換が求められています。

(独)農研機構野菜茶業研究所は、食品残渣や畜産廃棄物などの有機質資源から微生物を使って短期間に無機肥料成分を回収する技術を開発しました。化学肥料のように電気などのエネルギーを製造時に必要としないため、本技術の製品化や普及により、CO2排出量の大幅な抑制が期待されます。

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果樹用新型スピードスプレイヤーを開発、農薬飛散・騒音を大幅低減

棚栽培果樹用スピードスプレヤーナシなどの棚栽培果樹は園地と住宅地が近い都市近郊栽培が多く、スピードスプレヤーによる 薬液飛散に加えて、薬液散布時の騒音がトラブルの要因となるこ ともありました。

(独)農研機構生物系特定産業技術研究支援センターは、(株)丸山製作所、ヤマホ工業(株)と共同で、棚面に近づけて散布できる昇降型のノズル管支持装置により、エンジン・送風機の回転数を下げて薬剤散布が可能となる棚栽培果樹用の新型スピードスプレイヤーを開発しました。従来機より農薬飛散・騒音が少なく、園地と住宅地が近い都市近郊型栽培での活用が期待されます。

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