キクのロゼット形成におけるエチレン情報伝達系の関与

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要約

エチレン低感受性遺伝子組換えキクでは、野生型においてロゼット形成が誘導される温度条件下でも、ロゼットを形成せず正常に花芽分化する。よって、キクにおける温度依存性のロゼット形成には、エチレンによる情報伝達が関与している。

  • キーワード:キク、エチレン、温度反応、ロゼット、花成、休眠
  • 担当:花き研・生育開花調節研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-6801
  • 区分:花き
  • 分類:研究・普及

背景・ねらい

多年草のキクは、株が夏の高温に遭遇した後、秋から冬にかけての低温条件下でロゼットを形成して休眠状態となり、花芽分化しなくなる。この休眠の誘導にはエチレンの関与が示唆されているが、具体的な制御機構は解明されていない。秋冬期のキクの営利生産における茎伸長の低下や開花遅延といった問題を解決し、安定周年生産に向けた基礎情報を得るために、休眠誘導におけるエチレンの作用について明らかにする。

成果の内容・特徴

  • エチレン発生剤エセフォン散布処理(濃度1g/L)による茎伸長および花成への影響には、品種間差がみられ、次の3タイプに大別される(図1)。1)休眠(ロゼットを形成し花芽分化が起こらない状態)が誘導される(「あずま」および「セイマリン」)。2)一時的に茎伸長が抑制され、開花が遅延する(「セイローザ」)。3)茎伸長および花芽分化への影響はほとんどみられない(「新みどり」)。
  • 「セイマリン」での解析において、エセフォン散布処理(濃度1g/L)によって、休眠が誘導される。エチレン低感受性遺伝子組換え体では、休眠は誘導されない(図2)。
  • 「セイマリン」では休眠が誘導される温度条件下(15°C)でも、エチレン低感受性遺伝子組換え体では休眠は誘導されない(図3)。
  • 以上から、温度依存性のキクの休眠誘導には、エチレンを介した情報伝達が関与する。
  • 多年草における温度誘導性の休眠現象に、エチレンが関与していることを明らかにした初めての知見である。

成果の活用面・留意点

  • 遺伝子組換えによりエチレン低感受性を付与することで、低温下でも正常に茎伸長および開花するキクの作出が可能となり、安定周年生産に寄与できる。
  • キクの休眠現象にエチレンが関与していることを明らかにした本成果は、キクのロゼット形成を制御する分子機構の解明に繋がり、また品種選抜ならびに栽培技術開発の一つの目安となる。
  • エチレン低感受性遺伝子組換え体は、キクの内在エチレン受容体遺伝子DG-ERS1にシロイヌナズナの変異エチレン受容体遺伝子etr1-4に存在する一塩基置換変異を導入して作成された変異エチレンレセプター遺伝子mDG-ERS1(etr1-4)を、「セイマリン」に導入することによって作出された(Narumi et al., 2005. Postharvest Biol. Technol. 37(2): 101-110.)。

具体的データ

図1 エセフォンによる茎伸長および花芽分化の抑制における品種間差.エセフォン1g/L処理後75日目の植物体.

図2 エセフォンが「セイマリン」野生型およびエチレン低感受性遺伝子組換え体(注)の生育に及ぼす影響.エセフォン1g/L処理後42日目の植物体.

図3 生育温度が「セイマリン」野生型およびエチレン低感受性遺伝子組換え体(注)の生育に及ぼす影響.A,実験期間中の茎伸長量.縦棒は標準誤差を示す(n=8-10).B,花芽分化個体率.C,実験終了時の野生型の植物体.D,実験終了時のエチレン低感受性遺伝子組換え体の植物体.

その他

  • 研究課題名:きく等切り花の生育・開花特性の解明と安定多収技術の開発
  • 課題ID:213-g
  • 予算区分:基盤、交付金プロ(実用遺伝子)
  • 研究期間:2006~2007年度
  • 研究担当者:住友克彦、久松 完、道園美弦、小野崎 隆、國武利浩(福岡農総試)、鳴海貴子(香川大農)、
                       佐藤 茂(京都府立大生命環境)、柴田道夫(農林水産技術会議)
  • 発表論文等:1)Sumitomo et al. (2008) J. Hort. Sci. Biotech. 83(6): 809-815.
                       2)Sumitomo et al. (2008) J. Exp. Bot. 59(15): 4075-4082.