モモ果実では、軟化に伴い、可溶化する高分子ペクチン複合体が増大する

要約

収穫後のモモ果実では、軟化に伴い、可溶化する高分子ペクチン複合体量が増大する。この現象は、エンド型ペクチン分解酵素(endo-PG)活性を持つ溶質モモと持たない不溶質モモに共通して認められることから、endo-PGは関与しないと推定される。

  • キーワード:モモ、細胞壁、ペクチン、軟化
  • 担当:果樹・茶・ナシ・クリ等
  • 代表連絡先:成果情報のお問い合わせ
  • 研究所名:果樹研究所・栽培・流通利用研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

果実の硬さは主に果肉の細胞壁の強度によって決定される。モモ果実では、軟化に伴って細胞壁のペクチンが大量に可溶化することから、このことが軟化の要因とされる。ペクチンは、ホモガラクツロナン(HG)を始め,複数の異なる構造を含む高分子複合体として存在している。モモにはHGを分解する酵素(endo-PG)活性を持つ溶質モモと持たない不溶質モモがあり、両者の軟化程度の違いは本酵素によるものとされている。しかし、不溶質モモでも徐々に軟化することから、モモ果実の軟化にはendo-PG以外の要因が関与していると考えられる。そこで、溶質モモと不溶質モモの果実について、収穫後の軟化に伴う細胞壁多糖類の変化を解析し、endo-PGの有無に関わらず起こるモモ果実の軟化機構の一端を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 果実を25°Cで貯蔵すると、溶質モモの「あかつき」は急激に果肉硬度が低下する。一方、不溶質モモの「もちづき」は緩やかに果肉硬度が低下する(図1)。
  • 軟化に伴い可溶化するペクチンを分子量サイズで分画すると、「あかつき」では分子量が40万~70万の鋭いピーク(溶出量約5~6mL,高分子ピーク)と分子量が数千程度~20万(溶出量約6mL~9mL)で幅広い分布を示す領域(低分子領域)が認められる。一方、「もちづき」では「あかつき」と同様の鋭い高分子ピークと分子量約10万程度の小さな低分子ピーク(溶出量約6.5~7.5mL)が認められる(図2)。
  • 「あかつき」の低分子領域は主にガラクツロン酸を含むHGであり、軟化に伴い、急激に増大する。この低分子ペクチンの増大は、溶質モモの「あかつき」でのみ認められ、endo-PGが関与すると考えられる。一方、「もちづき」の低分子ピークは主に中性糖で、軟化に伴う大きな変化は認められない(図2)。
  • 高分子ピークは、両品種ともに中性糖とガラクツロン酸の両者を含む巨大な高分子ペクチン複合体である。このピークは、溶質モモ、不溶質モモともに軟化に伴い増大する(図2)ことから、この現象にはendo-PGが関与しないと推定される。

成果の活用面・留意点

  • モモ果実の肉質の違いや軟化機構を解明するための基礎的知見となる。
  • 本成果に加えて、モモ果実の軟化時には、溶質・不溶質に関わらずセルロース結合性ペクチン様多糖類の遊離も伴う。

具体的データ

図1 貯蔵中の果肉硬度の変化
図2 軟化に伴う可溶性ペクチンの分子量分布の変化

(羽山裕子、中村ゆり)

その他

  • 中課題名:高商品性ニホンナシ・クリ及び核果類の品種育成と省力生産技術の開発
  • 中課題番号:142a0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2008~2011年度
  • 研究担当者:羽山裕子、吉岡博人、立木美保、中村ゆり
  • 発表論文等:Yoshioka et al. (2011) Postharvest Biology and Technology 60:100-110