トマトのジャガイモシストセンチュウ抵抗性遺伝子を判定するDNAマーカー

要約

国内のジャガイモシストセンチュウ抵抗性トマト品種は抵抗性遺伝子Hero A を持ち、新規作成PCR-RFLP DNAマーカーによって明確に判定できる。

  • キーワード:ジャガイモシストセンチュウ、トマト、抵抗性遺伝子、DNAマーカー
  • 担当:北海道農研・北海道畑輪作研究チーム
  • 代表連絡先:電話011-857-9260
  • 区分:北海道農業・生産環境、共通基盤・病害虫(虫害)
  • 分類:研究・普及

背景・ねらい

 国内においてはジャガイモシストセンチュウ抵抗性トマトの遺伝的要因は不明であり、接種試験以外に抵抗性の選抜方法はなかった。また、抵抗性メカニズムの解析を進める場合にも、抵抗性遺伝子の特定が必要である。そこで、各品種や育種素材が抵抗性か否かを判定する場合や、品種改良における抵抗性選抜に有用な、実用的な高精度DNAマーカーを開発する。

成果の内容・特徴

  • 国内のトマト品種のジャガイモシストセンチュウ抵抗性は、既報の遺伝子検出プライマー(Hero-F2, Hero-R3)を用いたPCR増幅およびその増幅産物の塩基配列情報から、Hero A遺伝子によるものである(表1、図1)。
  • Hero A遺伝子内の塩基配列情報から新たに作製したPCR-RFLP用プライマー(表1)を用いてPCR増幅を行い、制限酵素AluI、AfaI、TaqIで処理したPCR-RFLPパターンを比較することで、Hero A遺伝子に由来する抵抗性品種と感受性品種が明瞭に識別できる(図2)。この手法は、既報のHero A検出プライマーによる判別法より明瞭・確実に判定できる点で優れ、かつ、従来の接種試験法では約3か月を要していた抵抗性の検定期間が1日で完了する。
  • 本マーカーにより、既報のミニトマト以外に「シンディスィート」、「レッドオーレ」、「フルティカ」などの中玉トマト品種にもHero A遺伝子が見つかり、これら品種は接種試験においてもほとんどジャガイモシストセンチュウの増殖はみられず、抵抗性である(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 本研究で開発したDNAマーカーは、植物防疫法上の取り扱い制限があるジャガイモシストセンチュウを直接取り扱うことなく、既存のトマト品種の抵抗性検定および品種改良における選抜等に活用できる。
  • Hero Aはジャガイモシストセンチュウだけでなく、国内未発生のジャガイモシロシストセンチュウおよびそれらの全パソタイプに抵抗性であることが報告されている。

具体的データ

表1 プライマー配列

図1 Hero A検出プライマーによる PCR増幅 1:シュガーランプ(R)、2:ミニキャロル(R)、3:イエローキャロル(R)、4:ドクターK (R)、5:桃太郎(S)、6:マネーメーカー(S)、7:強力米寿(S)、8:影武者(S)、M:マーカー(100bp)

図2 3種制限酵素を用いたPCR-RFLPによる抵抗性品種(R)と感受性品種(S)の識別 (番号と品種名は図1に同じ)

図3 トマト品種への接種試験結果 1:シンディースイート(R)、 2:レッドオーレ(R)、3:フルティカ(R)、4:強力米寿(S) 9cmポット1苗あたり卵幼虫1万頭接種、 約3か月栽培後のジャガイモシストセンチュウ全卵数、3反復平均

その他

  • 研究課題名:地域条件を活かした高生産性水田・畑輪作のキーテクノロジー開発と現地実証に基づく輪作体系の確立
  • 中課題整理番号:211k.2
  • 予算区分:科研費
  • 研究期間:2009~2010年度
  • 研究担当者:植原健人、伊藤賢治、奈良部孝、増田税(北海道大学)
  • 発表論文等:Uehara T. et al. (2010) Plant Cell Physiol. 51(9):1524-1536