イノシンの施用は水耕栽培において作物の根の発育を促進する

要約

イネ、トマト、タマネギ、ヒマワリ、ダイズを供試して水耕栽培を行い、イノシンを添加すると、イネ、トマト、ヒマワリ、ダイズで根、特に根毛の発育促進効果が認められる。この効果はイノシンの窒素成分によらないことが無菌水耕栽培したイネで確認される。

  • キーワード:イノシン、根発達、根毛
  • 担当:北海道農研・根圏域研究チーム
  • 代表連絡先:電話011-857-9260、電子メールseika-narch@naro.affrc.go.jp
  • 区分:北海道農業・生産環境、共通基盤・土壌肥料
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

  • 自然界には様々な生長調整物質が存在するが、根の生育、特に根毛の発達に着目した研究は少ない。核酸の一種であるイノシンは、アミノ酸の工業的製造過程において副産物として大量に生成する化合物であり、その有効利用が求められている。本試験ではイノシンが根の発達に及ぼす影響を5種の作物について調査を行い、その効果を確認する。また、微生物によって代謝された化合物が影響を及ぼしている可能性についての検討も行い、イノシンの効果が直接的なものか間接的なものなのかを明らかにする。

成果の内容・特徴

  • イノシンの添加により顕著な根毛の発達の増加が認められ、この効果は特にイネ、トマト、ヒマワリで顕著である(図1)。作物体の窒素含有率に差が認められないイノシン添加量2mg/Lにおいても根毛の促進効果が認められることから、イノシンの根発育促進効果は、イノシンそのものの効果であると考えられる。
  • 無菌条件下の水耕栽培では、イネにおいてイノシンの添加によって有意に根長および側根数の増加が認められる(図2)。
  • 無菌条件でも根の発達に有意な促進効果が認められることから(図2)、イノシン施与の根発達促進作用はイノシンの分解産物による物ではなく,イノシンそのものが根に作用して引き起こされている現象であると考えられる。
  • イノシンによる根発達促進効果は特に側根、根毛において顕著であり、植物ホルモン様の作用であると考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は水耕栽培で得られた成果であり、土壌に施用する場合には別途確認する必要がある。
  • 作物の種類、品種による応答の違いについての検討の必要がある。
  • 無菌条件下では無い条件ではイノシンの分解産物の影響がある可能性がある。

具体的データ

図1 イネ、トマト、ヒマワリ、タマネギ、ダイズの根毛の発達におよぼすイノシンの影響の観察(200倍)。イネ、トマト、タマネギは21日間、ヒマワリ、ダイズは15日間栽培した。イノシンを水耕培養液に0 (a), 2 (b), 20 (c), 100 mg L-1 (d) 濃度で加えた。スケールバーは0.5mm。

図2 無菌的に2週間水耕栽培を行なったイネの根の生育。左側の図は根長、右側の図は側根数を示す。培養液のイノシン濃度を0, 20, 40mg/Lとした。各図でバーの上の異なる記号は有意な差があることを示す(Tukey法、p<0.05)

その他

  • 研究課題名:根圏域における植物ー微生物相互作用と微生物等の機能の解明
  • 中課題整理番号: 214i
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2009?2010年度
  • 研究担当者:信濃卓郎
  • 発表論文等:Dai et al. (2010) Soil Sci. Plant Nutr. 56(2):272-280