東アジア並びに熱帯のトビイロウンカの移動性関連形質の差異

要約

日本に飛来するトビイロウンカは産卵前期間が長く、絶食耐性が強く、熱帯個体群に比べて明らかに移動に適応している。このような移動に適応した個体群がインドシナの亜熱帯から中国に分布していることがわかった。

  • 担当:九州農業試験場・地域基盤研究部・害虫行動研究室
  • 連絡先: 096-242-1150
  • 部会名: 総合農業(生産環境)、病害虫
  • 専門: 作物虫害
  • 対象: 昆虫類
  • 分類: 研究

背景・ねらい

日本に飛来するトビイロウンカの飛来源は中国南部の早稲地帯と推定されている。この早稲地帯の大部分はウンカ周年発生地帯ではなく、更に南方からの飛来虫をウンカの起源としている。このウンカ類の季節的移動システムは、その空間的広がり、回帰移動の有無、熱帯のウンカの関わりなど不明な点が多い。これらを解明するため各地のウンカの移動に関連した生理的形質を比較した。

成果の内容・特徴

  • 1992年にインドシナと九州で採集した個体群について、ペア飼育により長翅型成虫の産卵前期間を比較した。50%の雌成虫が産卵を開始するのは、日本と北ベトナム(亜熱帯)の個体群では羽化後7~9日で、熱帯個体群(羽化後4~6日)に比べて産卵前期間が2~3日長かった(図1)。トビイロウンカは卵巣未熟な産卵前期間に移動するので前者個体群は後者に比べ明らかに移動に適応していると考えられる。
  • 1993年以降に採集した個体群について集団飼育により長翅型雌成虫の卵成熟を比較した。熱帯個体群(マレーシア94)は北ベトナム、中国、九州の個体群に比較して雌成虫の成熟が明らかに早かった。中国個体群(特に広西93)は九州個体群に比べ、卵成熟がやや早い傾向がみられた(表1)。
  • 九州個体群の長翅型成虫の絶食耐性は熱帯個体群に比べ羽化直後はあまりかわらないが、稲を48時間吸汁することによって飛躍的に増大した。北ベトナム個体群も同じ傾向を示した。一方、熱帯個体群は吸汁後の絶食耐性増加の程度が低かった(表2)。48時間吸汁後、熱帯個体群(雌)では卵巣発育の兆候がみられるが、九州個体群では卵巣は未熟なままなので、羽化後の吸汁がその後の移動分散に寄与している可能性が高い。

以上の結果から、インドシナ北部以北の東アジアには移動に適応したトビイロウンカ個体群が分布していると考えられる。一方、比較的短い産卵前期間を持つインドシナ南部の熱帯個体群はより増殖に適応した個体群と考えられ、日本に飛来する個体群とは明らかに異なっている。

成果の活用面・留意点

トビイロウンカの移動と増殖の実態を解明するための参考となる。なお、野外(水田)でのトビイロウンカの産卵前期間は気温はいうまでもなく、密度や稲の生育ステージの影響を受ける点に留意する必要がある。

具体的データ

図1 熱帯、亜熱帯および九州のトビイロウンカ個体群の産卵開始時期の推移

表1 東アジア・インドシナのトビイロウンカ個体群の羽化後の卵巣成熟

表2 熱帯、亜熱帯、温帯のトビイロウンカ長翅型成虫の羽化後の吸汁と絶食耐性

その他

  • 研究課題名:移動性害虫の行動習性の解明
  • 予算区分 :経常
  • 研究期間 :平成6年度(平成4~7年)