短稈で栽培特性の優れる暖地向き酒米新品種「吟のさと」(旧系統名 西海酒255号)

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要約

「吟のさと」は、酒米品種としては短稈で耐倒伏性が強く栽培しやすい晩生種である。玄米のタンパク質含有率は「山田錦」並で、心白発現率が高く、心白の形状も安定していて外観品質は良好である。高度精米が可能であるため、吟醸酒等の麹米として利用できる。

  • キーワード:イネ、酒米、耐倒伏性、心白
  • 担当:九州沖縄農研・米品質研究チーム、低コスト稲育種研究チーム、稲マーカー育種研究チーム
  • 連絡先:電話0942-52-0647、電子メールryotak@affrc.go.jp(稲育種ユニット)
  • 区分:九州沖縄農業・水田作、作物
  • 分類:技術・普及

背景・ねらい

北部九州では清酒の生産が盛んであり、地域の特色を出した清酒作りのために高品質かつ低コストの地場産の原料米を求める動きが出てきている。しかし、代表的な酒米品種である「山田錦」は、極長稈で耐倒伏性が弱いため暖地での栽培には適さない。また、暖地で掛け米に用いられている「レイホウ」「ニシホマレ」は栽培適性は優れ、低コストの原料米としての需要は根強いものの、高度精米が求められる吟醸酒の麹米用としては適さない。そこで、暖地向けの栽培特性が優れ、醸造適性も充分に備えた酒米品種を育成する。

成果の内容・特徴

  • 「吟のさと」は1996年に極良質の酒米品種「山田錦」を母とし、多収、良質の酒米系統「西海222号」を父として人工交配を行った組合せから育成された。
  • 出穂期は「レイホウ」より2日程度早く、成熟期は4~5日早い。暖地では“晩生の早”に属する(表1)。
  • 稈長は「レイホウ」並で「山田錦」より20cm程度短い。穂長は「レイホウ」より2cm程度長く、穂数はやや少なく、草型は“偏穂重型”である。
  • 耐倒伏性は“強”で「レイホウ」よりやや強く、「山田錦」より明らかに強い。脱粒性は“中”である(表1)。
  • 葉いもち圃場抵抗性、穂いもち圃場抵抗性ともに「山田錦」並の“やや弱”である。白葉枯病抵抗性は「山田錦」並の“やや弱”である(表1)。
  • 収量は「レイホウ」並で、「山田錦」よりやや多収である(表1)。
  • 玄米千粒重は「山田錦」並の大粒で、玄米の見かけの品質は、心白発現率が「山田錦」よりもやや高く良好である(表1)。心白の形状は線状で安定していて、精米時の砕米率も「山田錦」よりやや高いが「レイホウ」より明らかに低く優れる(表2、図1)。
  • タンパク質含有率は「山田錦」並である(表1)。純米吟醸酒は、「山田錦」並の酒質で、官能評価の結果も「山田錦」の純米吟醸酒と同様に優れる(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 強稈・多収で酒造適性の優れた晩生種として暖地の平坦部、準平坦部に適する。
  • 福岡県の酒造会社で「吟のさと」を原料とする吟醸酒・純米酒の製品化を予定している。普及見込み地帯は福岡県八女地域で、普及見込み面積は約10haである。
  • いもち病抵抗性は強くないので、適期防除を行う。
  • 白葉枯病抵抗性は“やや弱”なので、常発地での栽培を避ける。

具体的データ

表1.「吟のさと」の特性概要(2002~2006年)

表2.「吟のさと」の搗精試験結果(2006年産米)

図1.「吟のさと」の玄米切断面(左:吟のさと、右:山田錦)

表3.「吟のさと」の醸造試験結果

その他

  • 研究課題名:暖地に適した加工適性の高い多収・直播適性品種および新規胚乳形質品種の育成
  • 課題ID:221-d
  • 予算区分:加工プロ4系、交付金
  • 研究期間:1996~2006年度
  • 研究担当者:梶亮太、坂井真、田村克徳、田村泰章、岡本正弘、溝淵律子、平林秀介、西村実、深浦壮一