トビイロウンカと縞葉枯病に強く、高温登熟性に優れる水稲品種候補「西海267号」

要約

水稲「西海267号」は「ヒノヒカリ」熟期の複合抵抗性系統である。マーカー選抜により、トビイロウンカ、縞葉枯病、穂いもちに対する抵抗性遺伝子が導入されている。「ヒノヒカリ」よりも高温登熟条件下での玄米の外観品質が安定して優れる。

  • キーワード:イネ、縞葉枯病、トビイロウンカ、高温登熟性、DNAマーカー
  • 担当:九州沖縄農研・低コスト稲育種研究九州サブチーム(兼:作物研・稲マーカー 育種研究チーム)
  • 代表連絡先:電話0942-52-0647(稲育種ユニット)
  • 区分:九州沖縄農業・水田作、作物
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

  暖地では近年の高温化傾向により、主力品種の「ヒノヒカリ」において高温による白未熟粒の多発や充実不足による品質低下が顕著である。一方、近年では、トビイロウンカの被害が増える傾向にあり、また縞葉枯病は大陸から飛来してくる保毒ヒメトビウンカによる被害が報告されている。さらに、海外から飛来するこれらの害虫については薬剤耐性に変化を生じ、防除薬剤の効果が落ちるという新たな問題も生じている。そこで、これらの問題を解決するため、暖地の普通期栽培に適し、高温による品質低下が少なく、かつトビイロウンカや縞葉枯病に抵抗性を持つ中生品種を育成する。

成果の内容・特徴

  • 「西海267号」は「関東IL2号(関東BPH1号)(トビイロウンカ抵抗性遺伝子bph11保有)」と「西海249号(縞葉枯病抵抗性遺伝子Stvb-i、穂いもち圃場抵抗性遺伝子Pb1保有)」を2003年に交配した後代より選抜、育成されたうるち系統である。
  • 「ヒノヒカリ」に比べ、出穂期、成熟期とも1、2日程度遅く、九州北部の普通期では“中生の中”の熟期である。稈長は「ヒノヒカリ」よりやや短く、穂長はやや長く、穂数はほぼ等しい(表1)。
  • 単独系統の段階でDNAマーカーによる選抜を行い、Pb1bph11およびStvb-iを合わせ持つ系統を選抜した(写真1abc)。
  • いもち病真性抵抗性遺伝子型は“Pia,Pii”と推定される。葉いもち圃場抵抗性は“やや弱”であり、穂いもち圃場抵抗性は「ヒノヒカリ」より強い“中”である(表2)。
  • 縞葉枯病には抵抗性である(表2)。室内検定の結果、トビイロウンカBiotype1(野生型)には抵抗性である(表2)。
  • 収量性は「ヒノヒカリ」「関東BPH1号」並かやや優る(表1)。玄米千粒重は21g程度で、「ヒノヒカリ」よりやや小さい(表1)。
  • 玄米の外観品質は「ヒノヒカリ」「関東BPH1号」より優れ、“上中”である(表1)。高温寡照登熟条件下の白未熟粒発生は「ヒノヒカリ」より明らかに少なく、「にこまる」に近く高温登熟性に優れる(表2、写真2)。
  • 食味は「ヒノヒカリ」並の“上中”である(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 適地は暖地および温暖地の平坦部である。中生の耐病虫性良食味品種として、当面は九州の減農薬栽培生産における実用性を検討する。
  • トビイロウンカ抵抗性遺伝子bph11を持っているが、国内に飛来するウンカで加害性を持つバイオタイプの事例も報告されているので、発生状況に注意し発生が多い場合は適切な防除を行う。
  • 葉いもち圃場抵抗性は“やや弱”なので、発生が見られた場合は的確な防除を行う。

具体的データ

表1 特性一覧

写真1 DNAマーカーによる耐病虫性遺伝子の推定

写真2 高温寡照検定試験の玄米(2010 年)

表2 病害虫抵抗性および高温寡照耐性

(田村克徳)

その他

  • 研究課題名:稲病害虫抵抗性同質遺伝子系統群の選抜と有用QTL 遺伝子集積のための選抜マーカーの開発
  • 中課題整理番号:221g
  • 予算区分:委託プロ(ゲノム育種、新農業展開)
  • 研究期間:2003 ~ 2010 年度
  • 研究担当者:田村克徳、坂井真、岡本正弘、田村泰章、片岡知守、梶亮太、溝淵律子(生物研)