埋土種子の耕種的低減技術を活用した除草剤抵抗性スズメノテッポウの総合防除技術

要約

麦播種前に出芽している個体を非選択性除草剤で防除することで土壌表層の埋土種子が減少し、浅耕播種もしくは不耕起播種するとスズメノテッポウの発生数を低減できる。晩播、大豆との輪作で発生数はさらに減少し、これらを組み合わせることで持続的に埋土種子を低密度に管理できる。

  • キーワード:除草剤抵抗性、スズメノテッポウ、総合防除、埋土種子
  • 担当:新世代水田輪作・暖地水田輪作
  • 代表連絡先:q_info@ml.affrc.go.jp、Fax:096-242-7769、Tel:096-242-7682
  • 研究所名:九州沖縄農業研究センター・水田作・園芸研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

九州北部の広範囲の麦作圃場において、広く一般的に使用されてきた除草剤のトリフルラリンとチフェンスルフロンメチルに対して抵抗性を獲得した強害イネ科雑草のスズメノテッポウが発生しており、収量、品質の低下だけでなく、耕作放棄などの深刻な被害ももたらしている。まん延圃場の埋土種子数は極めて多く、発生数も1m2あたり数千~1万本以上と多いため、代替除草剤による防除だけでは安定的な防除は難しい。安定的な防除のためには埋土種子を減少させ発生数を減らすことが重要となる。そこで、浅耕播種、不耕起播種、晩播、大豆との輪作などを活用した発生数の耕種的低減技術と除草剤の効果的利用による防除技術を組み合わせた総合防除技術を開発するとともに、埋土種子の持続的な低密度管理の可能性を動態モデルを用いて評価する。

成果の内容・特徴

  • 土壌表層のスズメノテッポウ埋土種子が麦播種前に発芽し出芽する(図1-1)ので、出芽したスズメノテッポウを非選択性除草剤で防除する(図1-2)と、土壌表層の埋土種子が減少し(図1-3)、下層の埋土種子を表層に移動させないように、麦を浅耕播種または不耕起播種する(図1-4)と、スズメノテッポウの発生数は減少する(図2)。
  • 麦を晩播すると播種前に出芽する個体が増加し、埋土種子の減少割合が増加するとともに、気温が低下することで未発芽種子が二次休眠に入ることで発生数はさらに減少する(図2)。
  • 夏に大豆を作付けると、湛水による発芽抑制がないことや土壌表層が高温(50°C以上)になることによって埋土種子の死滅が増加するとともに、気温の低下に伴って収穫前からスズメノテッポウの発生が始まるため、水稲を作付ける場合に比べて麦播種時の埋土種子は大きく減少する(図3)。そのため、大豆を輪作することで耕種的に発生数を減少させることができる。
  • スズメノテッポウがまん延しない埋土種子数の水準は、麦播種時に深さ10cm、1m2あたり1万粒以下であり、埋土種子動態モデルに基づいた評価では、対策初年目に大豆を作付け、浅耕播種もしくは不耕起播種を導入することで速やかにまん延しない水準以下に減少し、その後も持続的に低密度に管理することができる(図4)。水稲-麦の二毛作体系においても4年程度でまん延しない基準以下に減少すると評価される。実際の試験圃場では2年でまん延しない水準に減少することを確認している(図4)。

普及のための参考情報

  • 本技術の普及対象は麦生産農家である。
  • 暖地の除草剤抵抗性スズメノテッポウまん延圃場で導入可能であり、水稲収穫後から麦播種までの期間が1ヶ月以上あれば温暖地への導入も可能である。
  • 本技術は福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県において100ha以上で普及しており、抵抗性スズメノテッポウが発生していると推定される1万ha程度に導入が可能である。
  • 浅耕の深度はスズメノテッポウの出芽可能深度である約5cmとする。晩播は九州北部では12月上旬~中旬に行い、播種後には抵抗性スズメノテッポウに効果のある土壌処理剤を処理する。
  • 本技術をとりまとめた試験研究機関、指導普及機関向けのマニュアル及び農家向けの簡易パンフレットを作成し、各1500部以上配布している。
  • 本技術の詳細を解説したマニュアルを以下のアドレスで公開している。
    http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/041717.html

具体的データ

 図1~4

その他

  • 中課題名:新規直播技術を核とした安定多収水田輪作技術の確立
  • 中課題番号:111b5
  • 予算区分:交付金、実用技術
  • 研究期間:2009~2011年度
  • 研究担当者:大段秀記、住吉正、小荒井晃、大野礼成(福岡農総試)、平田朋也(福岡農総試)、牧山繁生(佐賀農研セ)、秀島好知(佐賀農研セ)、市丸喜久(佐賀農研セ)、大隈光善(植調協会)、山口晃(植調協会)、西田勉(植調協会)