ベトナム南部メコンデルタにおけるトビイロウンカの発生量変動と移動実態

要約

メコンデルタのトビイロウンカ発生量はイネの収穫期面積と同期して周期的に変動している。2009年7月末の移動事例では、西からの季節風により収穫期の水田から移出したトビイロウンカが3時間、約100km移動したと推定される。

  • キーワード:トビイロウンカ、ベトナム南部、発生実態、移動
  • 担当:気候変動対応・暖地病害虫管理
  • 代表連絡先:q_info@ml.affrc.go.jp、Fax:096-242-7769、Tel:096-242-7682
  • 研究所名:九州沖縄農業研究センター・生産環境研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ベトナム南部のメコンデルタは水稲の主要生産地域であり、2006-2007年にはトビイロウンカが媒介するウイルス病(イネグラッシースタント病、イネラギッドスタント病)が多発し、大きな被害が発生した。トビイロウンカのメコンデルタ個体群は、殺虫剤に対する高い抵抗性も示しており、その長距離移動による日本を含む東アジア水稲作への影響が注目されているが、移動実態はよく分かっていない。そこで、衛星リモートセンシングによるイネのフェノロジー推定手法と、メコンデルタで2007年から整備された予察灯データ、流跡線解析手法を組み合わせて、発生実態と移動解明を行う。

成果の内容・特徴

  • Sakamoto et al. (2006)のリモートセンシング手法を用い人工衛星の光学センサーMODISデータを解析することで、ベトナム南部メコンデルタでのイネの出穂日の分布が推定できる(図1)。
  • メコンデルタでは出穂日から30日経過すると収穫期となるので、出穂日分布から30日後の収穫期の水田面積推移が求められる。この水田面積と予察灯誘殺数の対数値の時系列解析から、両者には同調する120日の周期変動がある。すなわち年3作で収穫面積が増える時期にトビイロウンカの発生量が増加している(図2)。
  • トビイロウンカの誘殺数は27から30日間隔でも周期的に変動しており、メコンデルタでは地域個体群が周年発生していることを示している(図2)。
  • 2009年7月29日AG省内で誘殺数が増加し、翌日DTとTG省で誘殺数が増加した事例を解析した結果(図3a)、収穫時期の水田はAG省とKG省の一部に分布し、そこが移出源と推定される(図3b)。一方DT省南部とTG省西部は収穫時期でなく、トビイロウンカの移入を受けた地域と推定される。
  • 7月29日の流跡線解析によりAGとKG省から流跡線が東に延び、3時間で約100kmの地域まで到達する(図3c)。DTとTG省内では、この流跡線が到達した範囲で7月30日に誘殺数が増加している(図3d)。
  • 以上から2009年7月末の移動事例では、収穫期の水田から移出したトビイロウンカが西からの季節風により3時間、約100km移動したと推定される。
  • この推定移動距離は、日本などでみられる長距離移動に比べて短距離の移動である。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、熱帯のトビイロウンカ個体群の移動実態が明らかとなった最初の解析例である。ただベトナム南部から他地域への移動については依然として不明であるので、今後域外への移動実態を解明しなければならない。
  • リモートセンシングによるフェノロジー推定手法はウンカの移動解析に初めて導入された。

具体的データ

図1~3

その他

  • 中課題名:暖地多発型の侵入・新規発生病害虫の発生予察・管理技術の開発
  • 中課題整理番号:210d0
  • 予算区分:交付金、科研費
  • 研究期間:2009~2013年度
  • 研究担当者:研究担当者:大塚彰、坂本利弘(農環研)、Ho Van Chien、松村正哉、真田幸代
  • 発表論文等:Otuka A. et al. (2014) Appl. Entomol. Zool. 49:97-107