高精度水田用除草機と米ぬか散布を中核技術とする水稲の有機栽培体系

要約

有機栽培圃場において、高精度水田用除草機による除草作業と移植時の米ぬか散布等を組み合わせることにより雑草を顕著に抑制できる。本技術を中心とした水稲有機栽培体系では、慣行栽培に比べて穂数は減少するが、玄米収量は約8%減で減収程度は小さい。

  • キーワード:有機栽培、高精度水田用除草機、水稲、米ぬか
  • 担当:環境保全型農業システム・有機農業体系
  • 代表連絡先:電話 029-838-8481
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・生産体系研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

わが国の有機JAS水田面積は約3千ha(全水田面積の約0.2%)と少ない。農家を対象とした調査では水稲の有機栽培の慣行栽培に対する減収率は平均約25%で雑草対策が重要な課題とされているが、抑草効果と生産性がともに高い栽培体系は少なく有機栽培面積は拡大していない。そこで、抑草効果と労働生産性が比較的高い高精度水田用除草機の利用を中心に、雑草の発芽抑制効果が示唆されている米ぬか散布等を組み合わせた除草体系の抑草効果を明らかにするとともに、水稲の収量や形質を慣行栽培と比較することで、汎用性が高く慣行栽培に対する減収率が10%以内となる有機栽培体系を提示する。

成果の内容・特徴

  • 本有機栽培体系は、水稲の生育や雑草・病害防除等に有効性が高いと考えられる栽培技術および入手しやすい生産資材を利用するという視点から組み立てられている。最も問題となる雑草対策としては、高精度水田用除草機による機械除草と移植時および除草作業時の粒状米ぬか散布(約50kg/10a×2回)のほか2回代かき、中苗移植、常時湛水管理をおこなう(図1)。
  • 本体系を実践した有機栽培圃場の雑草乾物重は、条間ではほぼゼロ、残草の多い株間においても雑草放任区(雑草防除を全く行わない区)の20%以下となり、雑草は顕著に抑制される。水稲の欠株率は、年次変動は大きいが平均すると約6%である(表1)。
  • 有機栽培圃場の玄米収量は、慣行栽培圃場に対して平均で約8%減収するが減収程度は比較的小さい。しかし、穂数は慣行栽培より有意に減少する(表2)。
  • 有機栽培圃場の玄米収量は、穂数およびもみわら比と正の相関、欠株率と負の相関関係があり、収量の向上と安定化には穂数の確保、欠株率の低減などが課題となる(表3)。一方、雑草乾物重とは相関関係がなく残草量も少ないことから、本有機栽培体系では収量にほとんど影響がないレベルまで雑草を抑制できる。

成果の活用面・留意点

  • 関東地域等の温暖地において3ha程度以上の規模で水稲の有機栽培をおこなう生産者に対して参考となる。
  • 本試験は茨城県つくばみらい市の中央農研谷和原水田圃場(土壌は灰色低地土)で、有機栽培は3年以上有機JAS法に準じた栽培管理を実施した2筆、慣行栽培は近隣の3筆を用いて行った。有機栽培圃場の施肥量はN,P2O5,K2Oを各5kg/10aとし、水稲「コシヒカリ」を6月上旬に株間18cm(18.5株/m2)で移植した。優占雑草種はコナギ(埋土種子数1万粒/m2以上)である。ヒエ類やクログワイ等の多年生雑草が優占する圃場では十分な抑草効果が得られない可能性がある。また、米ぬかの抑草効果は土壌や作期等により変動する(2012年度研究成果情報「米ぬか施用によるコナギ抑草効果に及ぼす土壌、施用量および作期の影響」)。
  • 高精度水田用除草機の利用法や栽培管理に関する注意事項等に関しては、2009年度研究成果情報「乗用型水田除草機と米ぬか散布を組み合わせた水田内除草技術」、「水稲有機栽培技術マニュアル(暫定公開版)」を参照のこと。

具体的データ

図1,表1~3

その他

  • 中課題名:有機農業の成立条件の科学的解明と栽培技術の体系化
  • 中課題整理番号:153b0
  • 予算区分:交付金、競争的資金(農食事業)
  • 研究期間:2011~2014年度
  • 研究担当者:三浦重典、内野彰、野副卓人、田澤純子、白石昭彦、仲川晃生、中谷敬子、新良力也、宮武恭一、吉田隆延、水上智道
  • 発表論文等:
    1)三浦ら(2015)中央農業総合研究センター報告24、24:55-69
    2)農研機構(2015)「機械除草技術を中心とした水稲有機栽培技術マニュアル(暫定公開版)」