ジャガイモの複葉抽出物による土壌中のそうか病菌の影響評価方法

要約

ジャガイモそうか病汚染圃場及び健全圃場で栽培したジャガイモの複葉抽出物をNMRによるメタボローム解析で比較すると、汚染圃場でクエン酸とギ酸の量比が顕著に低いことが認められる。2種の有機酸の量比から地下塊茎の品質を予測できる。

  • キーワード:NMR、メタボローム、ジャガイモそうか病、クエン酸、ギ酸
  • 担当:加工流通プロセス・先端流通加工
  • 代表連絡先:電話 029-838-7991
  • 研究所名:食品総合研究所・食品分析研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

高品質な農作物に対する消費者や加工事業者の高いニーズを適えながら生産者の収益性も高めていくためには、栽培する圃場の特性やそれに由来する作物の生育状態を総合的に評価し、その結果を適切な品種と栽培技術を組み合わせた効率的な生産に反映することが重要である。ジャガイモそうか病は、収穫物である地下部の塊茎(イモ)に病斑を生じる病害で(図1)、発生により生食及び加工用途としての商品価値を著しく損なうが、経済性に見合う有効な防除法は未だない。また、そうか病は地下部にのみ病徴が現れるため、塊茎を収穫するまでその被害状況を把握することは困難である。本研究では健全圃場およびそうか病汚染圃場で栽培したジャガイモを対象に、通常、病徴の判断に使用されない地上部に着目してNMR法によるメタボローム解析を行う。収穫前の早期のイモの品質予測や栽培環境の改善の指標となり得る代謝変動を見出すことを目的とする。

成果の内容・特徴

  • NMR法によるメタボローム解析は、図2に示す方法によって行う。塊茎形成初期(そうか病発症前)に採取・凍結乾燥した複葉のリン酸緩衝液抽出物の1H-NMRスペクトルを計測し、多変量解析等の統計解析に供する。
  • 1H-NMRスペクトルを用いてPLS回帰分析による判別分析(PLS判別分析)を実施すると、そうか病汚染圃場で栽培したジャガイモの複葉抽出物にはギ酸(δ 8.46 ppm)が多く、健全圃場で栽培したジャガイモの葉にはクエン酸(δ 2.54 ppm)が多い傾向が見られる。(図3)。
  • 複葉抽出物のクエン酸とギ酸の量比(クエン酸量/ギ酸量)を算出することによって、健全圃場及びそうか病汚染圃場の差異を精度よく検出できる(図4)。
  • 上記3の現象は、各品種・系統が有するそうか病抵抗性の強弱とは関係なく、試験に供した全ての品種・系統において一様に認められる(図4)。従って、複葉抽出物のクエン酸とギ酸の量比(クエン酸量/ギ酸量)は、そうか病の発病を予測するための指標になり得る。

成果の活用面・留意点

  • 本技術で得られる指標を収穫物である塊茎の品質予測に用いる際には、各品種・系統が有する抵抗性の強弱や圃場のpH、化学成分組成などの特性を考慮する必要がある。
  • 本技術によるジャガイモ作物体の診断結果は、期待される収穫物の品質に関する情報を与える他、圃場特性の評価にも活用できる。
  • 複葉抽出物中のクエン酸とギ酸の量比はNMRの信号強度比から決定可能であるが、NMR以外の手法で算出して用いることもできる。
  • 本研究では、北海道農業研究センターの試験圃場で栽培したジャガイモを解析した。作物の代謝プロファイルは栽培条件や地理的要因により変化する可能性があるため、複数圃場における調査や年次間差異の確認が必要である。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:先端技術を活用した流通・加工利用技術及び評価技術の開発
  • 中課題整理番号:330c0
  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2012~2015年度
  • 研究担当者:関山恭代、冨田理、小野裕嗣、池田成志、浅野賢治、小林晃、小林有紀
  • 発表論文等:関山ら、「ジャガイモ作物体の生育状態診断方法」特願2015-109720(2015年5月29日)