エゾシカから初めて分離されたトリパノソーマ原虫

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要約

エゾシカからトリパノソーマ原虫を初めて分離した。その原虫(TSD1)は、Stercoraria 属 Megatrypanum 亜属に分類され、遺伝学的にT. theileri に近縁であるが、in vitro での増殖様式や核型などの点で、T. theileri と異なる性状を持つ。

  • キーワード:エゾシカ、トリパノソーマ、分離、Stercoraria 属、Megatrypanum 亜属
  • 担当:動物衛生研・環境・常在性疾病研究チーム
  • 連絡先:電話029-838-7708
  • 区分:動物衛生
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

エゾシカ(Cervus nippon yesoensis )(ニホンジカの一亜種)は、北海道内で 生息数や分布域が急速に拡大し、放牧地など家畜の飼養環境にも頻繁に野生個体が出没していることから、両者が接触する機会は増えている。この様な状況の中 で、エゾシカに由来する病原体の伝播の可能性が危惧されており、我が国におけるシカ類の感染症に関する調査は、緊急かつ重要な課題となっている。本研究で は、エゾシカに感染するトリパノソーマ原虫の分離・培養とその性状について解析する。

成果の内容・特徴

  • 北海道で捕獲された1歳のメス野生エゾシカから、トリパノソーマ原虫(TSD1)を分離した。
  • TSD1は、シカ腎臓初代培養細胞を支持細胞として、20%牛胎仔血清含有イーグルMEM培養液で、長期間の維持培養が可能 である。一方、一般的なトリパノソーマの培養環境であるNNN血液寒天培地や、シカ腎臓細胞を含まない培地、牛腎臓株化細胞や鶏胎児線維芽細胞をシカ腎臓 細胞の代替として含む培地では、維持培養できない。
  • 培養液中のTSD1は、エピマスティゴートが大半を占め(>85%)、その他にトリポマスティゴート、プロマスティゴート、スフェロマスティゴート、アマスティゴートが混在する(図1)。
  • 電子顕微鏡像では、鞭毛、鞭毛嚢、脂肪滴、厚い三層構造の外皮、大型のキネトプラストなど、トリパノソーマ原虫に特徴的な構造物が確認される(図2)。
  • 18SリボソームRNAコード領域の遺伝子配列を基にした遺伝学的分類により、TSD1はStercoraria 属 Megatrypanum 亜属に分類され、牛に感染性のあるT. (Trypanosoma ) theileri に最も近縁な種である(図3)。
  • 一方、in vitroでの増殖様式や核型の点で、T. theileri と異なることから、別種と考えられる。

成果の活用面・留意点

  • トリパノソーマ原虫の感染がエゾシカで証明され、家畜や野生動物における衛生管理上、重要な資料となる。
  • エゾシカ由来トリパノソーマ原虫の新たな分離・培養技術が示され、当該研究分野の進展に寄与することが期待される。

具体的データ

図1 TSD1の光学顕微鏡像 図2 TSD1の電子顕微鏡像

 

図3 18SリボソームRNA領域の塩基配列をもとに作成した無根型系統樹

 

その他

  • 研究課題名:野生動物におけるコロナウイルス感染様式の解明及び宿主特異性機構の解明
  • 課題ID:322-g
  • 予算区分:委託プロ(BSE・人獣)
  • 研究期間:2005-2007年度
  • 研究担当者:畠間真一、菅野徹、石原涼子、芝原友幸、門田耕一、鈴木正嗣(岐阜大)、内田郁夫
  • 発表論文等:
    1) Hatama et al. (2007) Vet. Parasitol. 149: 56-64
    2) 畠間ら(2005) 日本獣医寄生虫学会誌 4(1): 51