液体培地を用いたヨーネ菌分離・同定法の確立

要約

液体培地を用いたヨーネ菌の分離培養後に、リアルタイムPCRによるヨーネ菌特異的遺伝子を検出することにより、現在普及している寒天培地による培養法と比べて、培養期間が大幅に短縮され分離率が向上する。

  • キーワード:ヨーネ菌、糞便培養、液体培地、DNA抽出、リアルタイムPCR
  • 担当:家畜疾病防除・細菌・寄生虫感染症
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・細菌・寄生虫研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

ヨーネ菌は、反芻動物の慢性消耗性疾患であるヨーネ病(法定伝染病)の原因菌であり、遅発育性の抗酸菌である。糞便等からヨーネ菌を分離するために、現在ハロルド培地等の寒天培地が用いられているが、液体培地の利用により分離率の向上と培養期間の短縮が見込まれる。ヨーネ菌培養用に改良された市販液体培地(MGIT培養システム、Becton, Dickinson and Co.)は、特別な装置等を必要とせず、寒天培地と同等なコストで検査が可能である。本研究では、MGIT培地を用いて迅速・簡便にヨーネ菌を分離・同定する方法を確立し、さらに従来の寒天培地による培養法と比較する。

成果の内容・特徴

  • MGIT培養システムは、培養チューブからの蛍光を観察することにより菌の増殖を検知し、蛍光が検出された場合は増殖した菌がヨーネ菌であることを同定する必要があるため、培養液からDNAを抽出し、リアルタイムPCRを用いてヨーネ菌特異遺伝子を検出する方法を検討する。表1に示す3種類のDNA抽出法を比較すると、DNAの抽出・精製効率はヨーネスピンRが最も優れているものの、操作が簡便で経済的であることから加熱法が有用である(図1)。インスタジーンRは、MGIT培地からのDNA抽出には適さない(図1)。
  • 生物学的・病原学的に異なるウシ型およびヒツジ型ヨーネ菌をMGIT培地で培養し、培養液から加熱法によりDNAを抽出、定期的にリアルタイムPCR検査を実施すると、接種菌量に依存してDNA量の増加が認められ菌の増殖が確認される(図2)。ヒツジ型ヨーネ菌はウシ型菌と比べると発育が遅く(図2)、さらに、バンコマイシンに対して感受性であるため、バンコマイシン無添加な液体培地を使用する必要がある。
  • 遺伝子検査陽性糞便(61検体)を用いて、液体培地と寒天培地による培養検査成績を比較すると、液体培地を用いることでヨーネ菌の分離率は有意に向上する(表2)。しかしながら、寒天培地でのみ菌分離陽性となる検体も認められる。液体培地と寒天培地の結果が一致しない検体は、リアルタイムPCRで定量されるDNA量が少なく、ヨーネ菌数の少ない糞便であると考えられる。
  • 牛糞便からのヨーネ菌分離において、寒天培地では培地上にコロニーが確認されるまでに2~5カ月を要する。一方、液体培地では平均30.5日で蛍光が検出され(図3)、ヨーネ菌の増殖を確認することができる。

普及のための参考情報

  • 普及対象:家畜保健衛生所等の病性鑑定担当者、動物検疫所
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国
  • その他:ホームページで公開しているヨーネ病検査マニュアルを改訂し、家畜保健衛生所等の病性鑑定担当者に向けて情報発信を行っている。さらに、病性鑑定指針に本成果を反映させる予定である。

具体的データ

図1~3,表1~2

その他

  • 中課題名:細菌・寄生虫感染症成立の分子基盤の解明と診断・防除のための基盤技術の開発
  • 中課題整理番号:170a2
  • 予算区分:RS事業
  • 研究期間:2011~2013年度
  • 研究担当者:川治聡子、永田礼子、森康行
  • 発表論文等:Kawaji S. et al (2014) J. Vet. Med. Sci. 76(1):65-72