病院排水の流入が下水処理施設における薬剤耐性菌の分布率を上昇させる

要約

インドにおいて病院排水の流入は下水処理施設の薬剤耐性大腸菌の分布率を有意に上昇させるが、採材季節と下水処理過程の相違は薬剤耐性菌の分布率に有意な影響を与えない。

  • キーワード:下水処理施設、病院、大腸菌、薬剤耐性、インド
  • 担当:家畜疾病防除・飼料等安全性確保技術
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708
  • 研究所名:動物衛生研究所・細菌・寄生虫研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

病院内外で多量の抗菌剤が日常的に消費されていることから、インドは薬剤耐性菌による高度汚染地域となっている。インドで出現し、既存の抗菌剤のほとんどに耐性を示すスーパー耐性菌が旅行者などを介して他国にも分布域を広げており、世界的な問題となっている。こうした薬剤耐性菌の地球規模での拡散を防ぐためには、インドの汚染状況を把握し、改善を促していく必要がある。下水処理施設(STP)で処理された水は河川に放流されるか、灌漑用水として利用されるので、処理水に薬剤耐性菌が存在すると環境に対する汚染源となる。したがってSTPは人の生活と環境の接点として極めて重要である。本研究ではSTPで採取した水検体から無作為に分離した大腸菌の薬剤感受性等を調査することで、インドのSTPにおける薬剤耐性菌分布率に影響を与える因子の特定を目指す。

成果の内容・特徴

  • 調査対象の3つのSTPのうち、STP1は一般排水のみを、STP2は一般排水と病院排水を受け入れており、規模は同じである。STP3は病院に併設された小規模施設で、病院排水のみを処理している。
  • それぞれの施設で異なる季節(モンスーン前、中、後)に4つの異なる処理過程(最初沈澱池、曝気槽、最終沈澱池、放流水)で水検体を採取すると、薬剤耐性菌の分布率等に及ぼす汚水流入源(施設)、季節、及び処理過程の影響を評価することができる。
  • 水検体から無作為に分離した大腸菌の12薬剤に対する感受性を調べ、ロジスティック回帰分析を行うと、病院排水の流入がSTPにおける薬剤耐性菌の分布率を有意に上昇させることが明らかとなる(図1)。季節と処理過程は影響を与えない(データ未掲載)。
  • 1菌株が耐性を示す薬剤数の分布を調べると、STP1では0剤の頻度が、STP3では10剤の頻度が最も高い(図2)。ロジスティック回帰分析により7剤以上に耐性を示す株の割合はSTP2と比べてSTP1で有意に低く、STP3で有意に高いことが明らかとなる。季節と処理過程は影響を与えない(データ未掲載)。
  • パルスフィールドゲル電気泳動による解析で、STP3由来の大腸菌では複数の菌株で同じ遺伝子型を示す例が認められる(データ未掲載)。この遺伝子型の偏りは病院に定着した菌株の存在を示唆する。

成果の活用面・留意点

  • インドにおいて病院排水の流入はSTPにおける薬剤耐性菌分布率を有意に上昇させる。薬剤耐性菌によるインドの環境汚染を低減するために、今後は病院排水の処理法を検討する必要がある。
  • 日本の病院でも多量の抗菌剤が使用されている。今後は同様の調査を日本でも行うことで、薬剤耐性菌による環境汚染に及ぼす病院排水の影響を評価することができる。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:飼料等の家畜飼養環境の安全性確保技術の開発
  • 中課題整理番号:170d1
  • 予算区分:競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2012~2015年度
  • 研究担当者:秋庭正人、仙波裕信(動検)、清水春菜(山梨県)、Valipparambil P. Prabhasankar(マニパル大)、谷保佐知(産総研)、山下信義(産総研)、李謙一、山本健久、筒井俊之、Derrick I. Joshua(マニパル大)、Keshava Balakrishna(マニパル大)、Indira Bairy(マニパル大)、岩田剛敏、楠本正博、Kurunthachalam Kannan(ニューヨーク州)、グルゲ・キールティー・シリ
  • 発表論文等:Akiba M. et al. (2015) Ecotoxicol. Environ. Saf. 115:203-208