高トリプトファン含量イネの作出

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

イネ由来の改変型アントラニル酸合成酵素αサブユニット遺伝子を導入した形質転換イネのうち、安全性評価試験に供した2系統は、温室および圃場を通じて安定して玄米におけるトリプトファン含量が増加する。

  • キーワード:トリプトファン蓄積、組換えイネ、安全性評価試験、代謝産物プロファイル
  • 担当:作物研・稲究部・遺伝子技術研究室
  • 連絡先:電話029-838-8539、電子メールkwakasa@affrc.go.jp
  • 区分:作物・生物工学、稲
  • 分類:科学・普及

背景・ねらい

必須アミノ酸の一つであるトリプトファンは、家畜飼料の添加物として利用するため醗酵工業的に生産されている。また、動物 の睡眠や神経作用に働くセロトニンやメラトニンなどの生理機能物質の前駆体でもある。これを高含量に蓄積する作物を開発することによって、家畜飼料として の利用と有用物質産生への利用が期待できる。すでに、トリプトファンによるフィードバック阻害に感受性の低下したアントラニル酸合成酵素αサブユニット遺 伝子をイネに導入してカルスと葉におけるトリプトファン含量の高い形質転換イネの作出を報告している。これらのイネについて、玄米におけるトリプトファン含量の蓄積を確認し、トリプトファン以外の代謝産物プロファイルを明らかにする。また、非閉鎖系温室と隔離圃場における安全性評価試験を実施して、作物と しての特性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 形質転換体の玄米における遊離トリプトファン含量は、35倍から273倍に向上する(図1)。
  • 玄米における遊離アミノ酸の組成は、大部分の系統において、トリプトファン以外に日本晴と大きな違いを示さない。
  • 玄米における代謝産物プロファイルは、日本晴と比べてトリプトファン以外に大きな変動を示さない(図2)。
  • 非閉鎖系温室および隔離圃場における栽培で、HW1およびHW5の2系統はトリプトファンを蓄積し、日本晴に比べて全トリプトファンは2倍以上増加する(表1、表2)。
  • 圃場栽培した組換えイネ2系統は、稈長(短稈:HW1)、粒着密度(疎:HW1、やや疎:HW5、中:日本晴)、種子稔性 (60-70%:HW1、75-85%:HW5、日本晴:92%:日本晴)、発芽率(53%:HW1、93%:HW5、100%:日本晴)、発芽日数 (10日:HW1、5.3日:HW5、2日:日本晴)、収量(53%:HW1、70%:HW5、100%:日本晴)において、日本晴と異なる形質を示す が、その他の一般形態、出穂期、花粉・葯形質、籾形質は日本晴と差を示さない。

成果の活用面・留意点

  • 玄米にトリプトファンを蓄積するイネは、飼料イネとしての利用法を確立するために利用できる。
  • トリプトファン関連二次代謝産物の産生を目的とした遺伝子操作の親植物として利用できる。

具体的データ

図1 玄米における遊離トリプトファン含量

 

図2 玄米の成分分析結果

 

表1 玄米における全トリプトファン含量

 

 

その他

  • 研究課題名:トリプトファン含量の高い飼料用イネの開発
    形質転換作物作製と解析によるトリプトファン生合成系の制御と利用法開発
  • 課題ID:02-02-01-01-02、08-01-06-01-14
  • 予算区分:融合研究、委託研究(CREST/JST)
  • 研究期間:2000~2003年度
  • 研究担当者:若狭暁、宮川恒(京大大学院)、根本博、長谷川久和(北興化学工業)、寺川輝彦(北興化学工業、小松晃、川岸万紀子