コムギ属もオオムギと同様に SD1座対応領域に種子休眠性QTLを持つ

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要約

2倍体コムギは、オオムギで最も作用力の強い種子休眠性QTLと報告されている SD1座に対応する領域に作用力の強い種子休眠性QTLを持つ。

  • キーワード:コムギ、オオムギ、種子休眠、QTL、SD1
  • 担当:作物研・麦類遺伝子技術研究チーム
  • 連絡先:電話029-838-8861
  • 区分:作物
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

コムギ属と同じTriticeae連に属すオオムギは、5H染色体長腕セントロメア近傍に作用力の非常に大きな種子休眠性QTL SD1座を持つ(Ullrich et al. 1993, Hori et al. 2007)。しかし、6倍体の普通コムギではこの領域に作用力の大きなQTLは検出されていない(Flintham et al. 2002)。そこで、2倍体のコムギを用いて種子休眠性のQTL解析を行い、コムギ属でもこの領域に対応する種子休眠性QTLが存在するか可能性を検証する。

成果の内容・特徴

  • 2倍体コムギの栽培種Triticum monococcum L.(Tm)は休眠性弱、野生種T.boeoticum L.(Tb)は休眠性強を示す(図1)。これらを両親とした組換え自殖系統(RILs)の発芽指数の分布は、発芽率の高い方に偏った連続分布を示す(図1)。
  • オオムギのSD1座は5H染色体上のABC302 及びK01353 の近傍に位置する(Ullrich et al. 1993, Hori et al. 2005)。EST情報を用いて作製したこれらオオムギのマーカーに対応するコムギdCAPSマーカーwABC302 及びwK01353 は、コムギ5Am染色体上のSD1対応領域を示す(図2)。
  • これらマーカーを含む連鎖地図と上記のRILの発芽指数をインターバルマッピング法によりQTL解析すると、2年間にわたり安定して2倍体コムギ染色体5Am(LOD値6.2、4.7)、3Am(LOD値2.5、2.2、LOD値2.3、2.1)、4Am(LOD値2.1、2.1)上にLOD値2を超える種子休眠QTLが検出される。
  • 検出された5Am染色体上の作用力の一番大きな種子休眠性QTL領域は、オオムギSD1座に対応するコムギマーカーがマッピングされた領域と一致する(図3)。
  • 以上の結果は、コムギ属でも、作用力の大きな種子休眠性QTLが、オオムギのSD1座と対応する領域に検出されることを示しており、6倍 体コムギの種子休眠性を明らかにする研究に役立つ。6倍体のコムギではこの領域に作用力の大きな種子休眠性QTLが検出されていないことから、SD1座対 応領域のQTLは劣性で6倍体コムギでは変異が隠されている可能性が高い。

成果の活用面・留意点

本研究の結果は、コムギ属もオオムギと同様、第5同祖染色体上に作用力の大きな種子休眠性QTLを持つことを示しており、麦類の種子休眠機構解明のための基礎的知見となる。

具体的データ

図1 TmとTbのRILにおける発芽指数の頻度分布

 

図2  オオムギSD1座領域対応コムギdCAPSマーカーのマッピング

 

図3 5Am染色体上の種子休眠QTLとSD1対応領域の関係

 

その他

  • 研究課題名:麦類の穂発芽耐性等重要形質の改良のためのゲノム育種
  • 課題ID:221-a
  • 予算区分:ブラニチ・交付金
  • 研究期間:2002~2007年度
  • 研究担当者:中村信吾、小松田隆夫(生物研)、三浦秀穂(帯畜大)、Yerlan Turuspekov、金子成延、渡邊好昭、久保友明、安倍史高、蝶野真喜子、川口健太郎、芦川育夫
  • 発表論文等:Nakamura S. et al. (2007)Theor. Appl. Genet. 114:1129-1139