温暖地における穂発芽極難コムギ系統の安定した評価法の確立

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要約

成熟期にコムギの穂を採取し、室内で25°C4週間経過後に、穂発芽程度を調査することで,安定して穂発芽極難系統を評価することができる。

  • キーワード:コムギ、穂発芽耐性、穂発芽極難、低アミロ耐性
  • 担当:作物研・めん用小麦研究チーム、パン用小麦研究チーム、九州沖縄農研・めん用小麦研究チーム、パン用小麦研究チーム、赤かび病研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-7497
  • 区分:作物、関東東海北陸農業・関東東海・水田作畑作
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

成熟期に降雨が多い日本のコムギ生産現場では穂発芽の被害に遭いやすいため、より穂発芽耐性が優れた品種の育成が望まれている。しかし、これまで温暖地においては穂発芽性「極難」であるゼンコウジコムギ並の品種は育成されてこなかった。一方、北海道においては、成熟期に採取した穂を乾燥後脱粒し、従来よりも低温の10°Cで発芽試験を行い、穂発芽性を判定することで、穂発芽性「極難」のOS21-5(長内氏育成:Tordo/ゼンコウジコムギ)や北系1802(北見農試育成:北系1616(後の「きたもえ」)/ニシカゼコムギ)が育成されている。そこで、温暖地においても、穂発芽性「極難」品種を育成するためには、これまでの評価法では判別が不明瞭であった穂発芽性「難」と「極難」を明確に判定でき、判定作業が育種事業での収穫作業の忙しい時期と重ならない新たな評価法を確立する必要がある。

成果の内容・特徴

  • 成熟期に採取した穂を脱粒せず直ちに穂発芽検定を行う場合、15°C条件で調査した結果と比べ、10°C条件での調査は穂発芽程度が小さく判定され、品種間差も小さくなる(図1)。
  • 成熟期に穂を採取し脱粒せず室内(25°C)で育種事業での収穫作業が終了する4週間経過後、15°Cで穂発芽検定を行う改良法を用いると、成熟期に採取した穂を脱粒せず直ちに15°Cで穂発芽検定を行う結果と比べ、穂発芽極難のゼンコウジコムギとその他の品種の差が明瞭となる。また、4週間経過後の穂を用いた改良法の穂発芽程度の標準誤差は、最も小さい(図1)。
  • 改良法を用いることで、穂発芽性「極難」(OS21-5)と穂発芽性「難」(ミナミノコムギ、関系W462)との差は明瞭となる。また、改良法を用いてミナミノコムギ/(関系W462/OS21-5)F1の半数体倍加系統を評価すると、穂発芽極難系統をよりはっきりと判別することができる(図2)。
  • 改良法により半数体倍加系統から選抜された「谷系小H4040」と「谷系小H4050」は、穂発芽性「極難」のゼンコウジコムギやOS21-5と同程度の穂発芽程度を示す。また両系統は、異なる2試験地(作物研・九沖農研)において、2ヶ年とも農林61号より明らかに低い発芽率である(表1)。両系統は、成熟7日後の晩刈り材料を15°Cで雨濡れ処理した場合においても、低アミロ化しにくい(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 選抜された極難系統は、暖地・温暖地向けの穂発芽耐性品種育成のための育種素材として利用できる。
  • 穂発芽程度は気温や降雨などの登熟環境により変化するため、異なる試験地では、穂発芽性既知の品種の穂発芽程度を参考に,穂を採取してから調査開始までの期間及び検定温度を設定する必要がある。

具体的データ

図1.異なる条件での穂発芽程度の差異(2004~2008年産)

図2.半数体倍加系統群を異なる条件で調査した穂発芽程度の頻度分布

表1.作物研と九沖農研での成熟期種子の発芽率

図3.晩刈り材料への雨漏れ処理1)による低アミロ耐性2)(2007~2008年平均)

その他

  • 研究課題名:めん用小麦品種の育成と品質安定化技術の開発
  • 課題ID:311-b
  • 予算区分:ブラニチ1系、新需要麦
  • 研究期間:2002~2008年度
  • 研究担当者:松中 仁、小田俊介、藤田雅也、関 昌子、乙部千雅子、吉岡藤治、八田浩一、久保堅司、河田尚之