「ふくひびき」利用による飼料用イネ地上部放射性セシウム濃度の低減効果

要約

飼料用イネ地上部の放射性セシウム濃度には品種間差がある。水田条件によって品種間差が判然としない場合もあるが、5水田の平均で「ふくひびき」はインド型品種「ハバタキ」より45%低く、放射性Cs濃度が低い飼料用イネ品種として有望である。

  • キーワード:飼料用イネ、放射性セシウム、品種間差
  • 担当:放射能対策技術・移行低減
  • 代表連絡先:電話 029-838-8611
  • 研究所名:畜産草地研究所・飼料作物研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

飼料用イネの放射性セシウム(Cs)濃度は、これまでのモニタリング調査において暫定許容値を超える割合が低く、安全に利用できる飼料作物として期待されている。飼料用イネの放射性Cs濃度の低減には、高刈り、堆肥散布や施肥による交換性カリ含量の確保が有効であることがすでに明らかとなっているが、海外文献等では草種や品種間の違いも指摘されている。本研究では、稲発酵粗飼料としての利用を想定し、飼料用イネ地上部の放射性Cs濃度が低い品種を同定するとともに、複数圃場で導入効果を検討し、品種選択による放射性Cs濃度の低減効果を解明する。

成果の内容・特徴

  • 2012~2013年に栃木県及び福島県内の5水田において、低濃度品種候補「ふくひびき」、標準品種として栽培特性に優れる「夢あおば」、インド型品種「ハバタキ」の3品種を中心に、飼料用イネ地上部の放射性Cs濃度を比較すると、3水田(A、B、C)において統計的に有意な品種間差が認められ、その序列は「ふくひびき」≦「夢あおば」≦「ハバタキ」である。(図1)。
  • 一方、2水田(D、E)では有意な品種間差がなく、AとC水田では「モミロマン」と「ふくひびき」の序列が異なるなど、水田によって品種間差の現れ方に違いが見られる。
  • 5水田で得られた結果を平均すると、「夢あおば」に比べて、「ふくひびき」は22%低く、「ハバタキ」は42%高い(表1)。
  • 以上のことから「ふくひびき」は放射性Cs濃度が低い飼料用イネ品種として有望である。

成果の活用面・留意点

  • 県及び農協等、指導機関の関係者及び生産者に参考となる情報である。
  • 3水田(C、D、E)で調査した飼料用米(玄米)における放射性Cs濃度の品種間差は、地上部の放射性Cs濃度と同様の傾向である。
  • 品種間差が判然としなかった水田では、土壌的要因として移行係数が他より1桁低い(D水田)、粘土含量が高い(E水田)ことや、作物的要因として晩生品種で序列が入れ替わりやすい等の特徴が伺えるが、現時点ではこれらの要因の影響は不明であり、今後、品種間差が確実に得られる土壌条件等について明らかにする必要がある。
  • 「ふくひびき」は、東北農業試験場(現東北農業研究センター)が1993年に育成した多用途向け多収品種である。育成当時は福島県の奨励品種に採用され、近年も福島県内や山形県庄内地区において栽培実績がある。縞葉枯病抵抗性が付与されておらず、縞葉枯病の常発地帯である栃木県等での利用には、ヒメトビウンカの防除対策を実施する。

具体的データ

図1,表1

その他

  • 中課題名:農作物等における放射性物質の移行動態の解明と移行制御技術の開発
  • 中課題整理番号:510b0
  • 予算区分:委託プロ(除染プロ)
  • 研究期間:2012~2013年度
  • 研究担当者:原田久富美、伊吹俊彦、後藤明俊、近藤始彦、藤澤弥榮(福島農総セ)、藤田智博(福島農総セ)、佐久間祐樹(福島農総セ)、朽木靖之(福島農総セ)、齋藤隆(福島農総セ)、斎藤 栄(栃木畜酪研)、上野源一(栃木畜酪研)、佐田竜一(栃木畜酪研)