メタン発酵消化液の施用による土壌からの温室効果ガス発生量

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要約

メタン発酵の生成物である消化液を農地土壌へ施用すると、亜酸化窒素と二酸化炭素などの温室効果ガスが発生する。発生する亜酸化窒素の地球温暖化への寄与は二酸化炭素の約1/3で、温室効果の観点からは亜酸化窒素発生の抑制にも考慮が必要である。

  • キーワード:メタン発酵、農地施用、亜酸化窒素、二酸化炭素、有機性液肥
  • 担当:農工研・農村総合研究部・資源循環システム研究チーム
  • 連絡先:電話029-838-7508
  • 区分:農村工学、バイオマス
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

これまでメタン発酵消化液(消化液)の肥料効果に関する研究は行われてきたが、消化液施用に伴って生じる環境負荷に関しては明ら かにされていない。本研究では、環境負荷のうち農地土壌からの温室効果ガス発生に注目し、裸地圃場において消化液施用試験を行い、代表的な温室効果ガスで ある亜酸化窒素(N2O)、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)の土壌から大気への発生および表層土壌中のガス移動の変化を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 消化液施用後、N2O発生量は増加し20日前後でピークを示す。一方、CO2発生量も増加するが、その変化は小さく、明確なピークも確認できない(表1、図1、2)。
  • 消化液施用後の52日間の消化液区と無施用区の積算発生量の差から、消化液に含まれる窒素の0.17%がN2Oとして、炭素の22%がCO2として発生すると推測される(図3)。消化液施用後のN2O発生は施用農地の窒素収支の観点からは無視できるほど小さいが、CO2発生による炭素の消失は農地の炭素収支に大きな影響を与える。
  • 温室効果ガス発生の観点からは、発生したN2Oによる地球温暖化への寄与(積算発生量と各ガスの温暖化係数から計算)はCO2による寄与の約1/3と見積もられ、N2O発生もCO2同様考慮すべきと判断される。消化液の農地施用に伴う温室効果の削減には、CO2だけでなくN2O発生抑制の対策が必要である。
  • 消化液施用によるCH4発生量は、炭素量換算でCO2の0.037%、地球温暖化への寄与でもCO2の0.34%であり、炭素収支、温室効果ガス発生の双方の観点から無視できるほど小さい。
  • N2Oの積算移動量は積算発生量より小さく約2/3であるのに対し、CO2の積算移動量は積算発生量とほぼ同じ大きさである(図4)。発生量と移動量の差は表層土壌中で生成されたガスの量に相当すると考えられるので、地表から発生したN2Oの約1/3が表層0~5cmで生成されたガスであること、それに対し、発生したCO2はほとんどが表層より深い部分で生成され、地表へ移動したガスであることが示唆される。

成果の活用面・留意点

  • 本結果は、消化液の農地還元を組み込んだメタン発酵システム全体の温室効果ガス発生量を予測する上で参考となる。
  • 消化液の施用試験は二年以上作付けがされていない裸地圃場において、秋季から冬季(10月~12月)に行った。土壌の状態や栽培方法により発生量が変化すると予想されるため、更に多くの条件で測定を行い、覆土など発生量の抑制方法を検討する。
  • ガスの種類により消化液施用後の発生量変化に違いがあるため、温室効果ガス発生抑制方法の評価は複数のガスの発生量変化を把握し、総合的に判断する必要がある。

具体的データ

表1 土壌および消化液の理科学性

 

図1 チャンバ模式図(断面図)

 

図2 消化液施用による温室効果ガス発生量の変化 図3 消化液施用による積算発生量の変化

 

図4 消化液施用後の積算発生量と積算移動量の比較

その他

  • 研究課題名:畜産廃棄物・食品廃棄物等の有機性資源の循環的利用のためのシステム整備技術の開発
  • 実施課題名:再生資源の農地利用に伴う動態解明と環境負荷軽減対策技術の開発
  • 課題ID:411-e-01-003-00-I-07-3303
  • 予算区分:委託プロ(バイオリサイクル、バイオマス)、交付金研究
  • 研究期間:2006~2007年度
  • 研究担当者:藤川智紀、中村真人、山岡賢、柚山義人
  • 発表論文等:藤川ら(2008)、メタン発酵消化液の施用による土壌から大気への温室効果ガス発生量の変化、農業農村工学会論文集、254:85-95