熱帯モンスーンアジア域における降水パターンと日射量の特異性

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要約

熱帯湿潤地域では、雨季の約半数は無降雨かつ降雨日の日射量は無降雨日と同程度で、降雨事象の半数以上が夜間(日没から日出)に集中している。そのため、雨季にも乾季と同等の日射量があり、蒸発散推定には日射・降水量等の日内分布の考慮が必要である。

  • キーワード:日射量、日内降水量、蒸発散量、熱帯モンスーン域、地上水文気象観測
  • 担当:農工研・農地・水資源部・水文水資源研究室
  • 連絡先:電話029-838-7537
  • 区分:農村工学
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

熱帯モンスーンアジア域の水田地帯(メコン河下流)における水利用や水循環機能については、現地計測等が不十分かつデータ不足等 により、水稲生産に大きく関わる降雨量、日射量、蒸発散量等の扱いに関し、「日射量が大きい乾季の水稲生産ポテンシャルが高い」、「降雨日には蒸発散はな い(日本での扱い)」等の仮定が援用され、水収支に占める蒸発散の役割が非常に大きいにも関わらず、水循環機構の把握のための基礎的な知見は得られていな い。そこで観測データが極端に少ないカンボディアのトンレサップ湖及び水田地帯に設置した水文気象観測施設での観測データに基づき、現地の特徴的な水文気 象環境、特に日射量の季節変化や日内降水量の特徴と蒸発散量変化への影響について検討している。

成果の内容・特徴

  • 日本等の温暖湿潤地帯と違い、熱帯モンスーンアジア域では雨季にも十分な日射が得られ、同季の蒸発能は乾季と同等に大きい。 また、雨季の降雨日において日中の日射量は大きくは減少しないだけでなく、主に夕方から夜間にかけて大気放射量が増加することにより、日単位の雨季の純放 射量は乾季よりも1.8~2.2MJ m-2 d-1程度大きくなっている。それらの根拠としては以下のような地域の特異性が挙げられる。
  • 新たに独自で設置したカンボディア首都プノンペン(都市域)、カンダルストン(水田地帯)、チョンクニアス(トンレサップ湖面上)の3地点の総合水文気象観測データを用い、5日間降雨量の有無で雨季と乾季とを区分すると(表1)、雨季・乾季の日射量には大きな差はなく、平均値では乾季の方が0.12~1.45 MJ m-2 d-1と若干多いものの、雨季にも乾季と同等の日射量が得られている(図1)。
  • 3指標(降雨事象総数N、降雨継続時間Rd [h]、平均降雨強度I [mm h-1]) を導入すると、i)全降雨事象の半分以上が夜間に発生し、太陽高度の高い時間の降雨回数 (頻度)は非常に少ない(同図上段)、ii)降雨の開始時刻は夕刻がピークで、約1/3程度は3時間以上継続するが、早朝や正午の発生降雨は半数以上が1 時間程度の短時間で止む(同図中段)、iii)午後の強度は3~4mm h-1程度と強く、一方深夜から午前中は1~2mm h-1程度の弱い雨である(同図下段)等の特徴が抽出できる。
  • 日射量の日内分布と降雨時刻に関して、特徴的な日を選び両者の関係を図3に示す。図1の全事象では、降雨日においても無降雨日の9割近い日射量が得られている。

成果の活用面・留意点

  • 上記の知見は、大学、独法等の研究機関や民間の水文実務担当者にとって有用な情報であり、観測データに関しては、今後の継続取得データも含めて公開を原則としており、共有化と要望に応じた提供が可能である。
  • 上記内容はカンボディアでの観測値(周辺環境が異なる同国内3地点)から導かれたが、タイの検討結果も含め熱帯モンスーンアジア域で同様の傾向があると推量される。
  • 将来、気候変動により、温暖湿潤域の日本においても同様の現象が発生するなど、日射量や蒸発散量の推定方法の変更等への対応が必要になってくる可能性がある。
  • 得られた結果は、蒸発散量の推定、水循環モデルの構築、全球気候モデルとの結合に際し、降雨量や日射量の日内分布の考慮が極めて重要であることを示している。

具体的データ

図1 プノンペンにおける各季節の全天日射量の比較

 

図2 プノンペンにおける0.1mm h-1以上の降雨事象の時刻別頻度分布

 

図3 プノンペンにおける,特徴的なある3日間の日射量Sdと降雨量Pの日変化表1 降雨量による雨季・乾季の区分(日雨量0.1mm以上の日を降雨日と定義して5日連続量で分類)

 

表1 降雨量による雨季・乾季の区分(日雨量0.1mm以上の日を降雨日と定義して5日連続量で分類)

その他

  • 研究課題名:農村地域における健全な水循環系の保全管理技術の開発
  • 実施課題名:農業用水利用を組み込んだ分布型流出モデルの開発
  • 課題ID:412-a-00-001-00-I-07-8101
  • 予算区分:交付金研究、RR2002プロ、水循環プロ
  • 研究期間:2006~2008年度、2002~2006年度、2003~2007年度
  • 研究担当者:吉田武郎、増本隆夫、堀川直紀、辻本久美子(東大院工)
  • 発表論文等:
    1) Tsujimoto, K. et al. (2008) Seasonal Changes in Radiation and Evaporation Implied from the Diurnal Distribution of Rainfall in the Lowe Mekong, Hydrological Processes, 22(9): DOI: 10.1002/hyp.6935
    2) 増本ら(2007)トンレサップ湖畔と周辺都市・水田域における総合水文気象観測とデータ解析、農工研技報、206:219-236