放射性物質に汚染された農地における冬期の除染工法

要約

冬期に凍土となる放射性物質に汚染された農地では、表層の汚染土壌を剥ぎ取ることが困難になるが、凍結前に剥ぎ取る土層のみを耕耘して土塊状態をつくることで、冬期においても剥ぎ取り厚さを制御しながら、容易に剥ぎ取りが行える。

  • キーワード:放射性物質、冬期除染、凍土、表土剥ぎ
  • 担当:放射能対策技術・農地除染
  • 代表連絡先:電話 029-838-7555
  • 研究所名:農村工学研究所・農地基盤工学研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

放射性物質に汚染された未耕耘の農地を対象として、放射性物質が集積している表層数cmの剥ぎ取り除染が事業によって進められている。しかし、汚染地域のうち福島県飯舘村など山間部では冬期(12月下旬~3月上旬頃まで)の最低気温が概ね5°C以下になるため、厚い凍土が形成される。凍土の強度は高く、既存の工法では表層数cmの剥ぎ取りが困難なため、年の約1/3に渡るこの期間での除染作業は見送られている。この課題を克服して、除染の早期化を図るため、凍土が形成される冬期の表土剥ぎ取り工法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本工法は、凍土の形成が土壌水分の毛管上昇によって促進されることに着目し、剥ぎ取る土壌表層を凍結前に耕起して空隙の多い土塊状態とし、毛管上昇を抑制することで、凍結後のこの層の剥ぎ取りを容易にするものである(図1、表1a)。
  • 工程1;凍結前にロータリーやバーチカルハローなどを用いて、汚染土壌層を3~5cm耕起する。その際、10cm程度の土塊になるように刃の回転数などを調整する。また、降雨などで耕起層の構造が変化しやすい土壌は耕起の際に固化剤散布やほ場内に繁茂する雑草の裁断、耕起層内の鋤込みなどによって構造の維持を図る(図1)。
  • 工程2;凍結後に油圧ショベルの一般的な操作により、耕起層を剥ぎ取る。土塊状態で凍結した耕起層は容易に剥ぎ取りができる。さらに、下層は強度の高い板状の凍土になっているためバケットが深く入らず、排土量の増加や取り残しの懸念が少ない(図1)。
  • 福島県飯舘村での現地実証試験では、本工法は無対策と比較して、作業効率の向上(耕起作業を含め約3倍)、剥ぎ取り厚さの制御(本工法5cm、無対策10cm)、剥ぎ取り土塊サイズの改善(本工法約10cm、無対策約50cm)が認められる(図1、写真1、表1b)。剥ぎ取り前後の地表面の空間線量率は2.8μSv/hから0.5μSv/hに低下する。
  • 現地圃場の耕耘した攪乱土壌と不攪乱土壌を凍結させた試料の一面剪断応力は、攪乱土壌では不撹乱土壌の約1/4となり、剥ぎ取りの容易さが裏付けられる(図2)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:除染事業を行う国や地方自治体など事業主体および事業者
  • 普及予定面積:放射性セシウム濃度が概ね5,000Bq/kg以上の未耕起かつ未除染農地のうち、凍結指数が50以上のエリアに属する農地(福島県ホームページ"農林水産部農林技術課設計と積算のページ設計基準"を参照)
  • 凍結前の耕起は土壌の高水分状態を避ける。剥ぎ取り期間(表1a)中、積雪が予想される場合には事前の剥ぎ取りを心掛け、積雪深が概ね20cm以下では油圧ショベルで除雪して剥ぎ取りを行う。積雪深が概ね50cm以上で長期間継続する場合は適用が難しい。
  • その他:本工法は特殊機械を用いないため、低コストかつ汎用性が高く、除染を必要としながら、凍土によって除染作業が停滞する地域に広く適用することが期待できる。

具体的データ

図1~2,表1a~1b,写真

その他

  • 中課題名:高濃度汚染土壌等の除染技術の開発と農地土壌からの放射性物質の流出実態の解明
  • 中課題整理番号:510a0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2013年度
  • 研究担当者:若杉晃介、原口暢朗、小倉 力
  • 発表論文等:
    1) 若杉ら「冬期の汚染土壌表層の除去工法」特願2012-268793
    2) 若杉ら(2013)ARIC 情報111:17-24
    3) (独) 農研機構農村工学研究所(2013)放射性物質により汚染された農地等の除染に関する固化剤散布による表土削り取り工法に関する施工の手引き