企業的稲作法人経営における経営継承者の就職動機と継承組織への評価

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要約

法人に提供する農地を持たないで非農家・地域外から就職し、企業的稲作法人の継承者となった従業員は、就職時に農業生産に限定しない事業展開や商品力、営業力などを高く評価すると同時に、それらの向上に対して自らが貢献する能力や労働に対する報酬と充実感を求めている。

  • キーワード:経営継承、企業的稲作法人、従業員、就職動機、組織への評価
  • 担当:東北農研・東北水田輪作研究チーム
  • 代表連絡先:電話019-643-3492
  • 区分:共通基盤・経営、東北農業・基盤技術(経営)
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

一般に組織的法人経営においては、家族以外や非農家出身の従業員など継承者の選択肢が広がるといわれる。しかし継承者たり得る従業員の確保・育成にあたっては、組織が従業員を選ぶ視点とともに、従業員から選ばれる組織という視点も重要である。そこで構成員家族以外の従業員に経営継承を行った事例を基に、経営継承者の就職動機や継承組織を評価する点を示す。

成果の内容・特徴

  • A社は1977年に農家5戸で設立後、変遷を経て、現在、株式会社である。事業構成は営農・農産加工品の製造・販売等で、総販売額は約6億円である(表1)。多角的な事業展開を図る中で、技能や経験など広く人材を求める必要があり、1992年以降、約40名の従業員を採用してきた。その結果、2008年現在、役員・従業員26名中16名は地元以外の出身で地縁や血縁に依らない組織構成が基本となっている(表2)。
  • 2007年に従業員の中から次期経営陣として3名(B、F、G)を選び、継承を行った(表3)。継承者3名は、いずれも農地を持たず従業員で就職し、社内でのキャリアを経て役員に就任しており、A社における継承者の選出基準は農地提供ではなく能力と労働である。
    1)3名の入社動機は、「充実感」、「商品力」、「営農技術」、「事業形態の開拓」、「能力・行動の評価」への期待である。いわば非農家出身の経営継承者は、入社時にA社における農業生産に限定しない事業構成や商品力、営業力等の事業システムに対する期待が大きい。
    2)A社の経営的優位性として、「営業力」、「事業体制」、「商品力」などの事業システム面を指摘している。その後もキャリアを経る中で、農地の提供ではなく、A社の事業構成や組織運営に対して、自らが貢献できる能力(対外交渉力や事業構想力、事業展開上のアイデアなど)と労働が報酬面でも評価される組織として、継承することを決断している。
    3)役員としての抱負は、全社的には「社会的な評価に応える」、「経営者たる人材の育成」、「充実感をもてる職場」であり、担当別には「物語性を重視した営業」、「栽培技術の向上」、「店舗展開など事業構想の実現」を挙げる。いわば継承者3名は、今までA社が取り組んできた減農薬水稲生産や物語性を含めた商品PR、商品や事業領域の拡張など、創業構成員による農業生産面に限定しない市場対応を重視した事業展開を高く評価しており、同時にA社はこれらの事業展開への貢献を重視する組織と認識している。そして自分たちも、引き続きこの事業構成と組織運営を基本にしながら新たな事業展開を進めることに意欲をもっている。一方、今後の課題としては、営農面の技術向上や地域からの信頼形成等を重視している。
  • 以上、非農家出身の従業員への経営継承を志向する経営体においては、従業員のこのような志向や評価視点を認識し、それに対応できる事業構成や組織運営体制を整える必要がある。

成果の活用面・留意点

  • 家族外への経営継承を考える企業的法人経営における人材の確保・育成の参考になる。
  • 具体的な事業構成や組織運営に関してはケースによって異なるため、継承者の評価視点を意識しながら、個々の経営実態に応じた取り組みを考慮されたい。

具体的データ

表1  A 社の概要

表2 労働力の構成

表3 新役員のプロファイル

その他

  • 研究課題名:東北農業の動向解析に基づく新たな担い手像の解明と地域食材を活かした産地戦略による地域活性化手法の開発
  • 中課題整理番号:211a.2
  • 予算区分:基盤・所内活性化
  • 研究期間:2006~2009年度
  • 研究担当者:迫田登稔
  • 発表論文等:迫田登稔(2009)、農業経営研究、47(2):1-17