寒冷地における水稲品種「萌えみのり」の鉄コーティング種子湛水散播栽培

要約

寒冷地において直播向き水稲品種「萌えみのり」種子を鉄コーティングして湛水散播栽培することにより、一般品種の移植栽培並の収量、品質、食味となる。玄米60kg当たり費用は2009年度統計値の約80%となる。

  • キーワード:水稲、鉄コーティング、直播、萌えみのり、散播、密封式
  • 担当:東北農研・東北水田輪作研究チーム
  • 代表連絡先:電話0187-66-2776
  • 区分:東北農業・作物(稲栽培)、作物、共通基盤(総合研究)
  • 分類:技術・普及

背景・ねらい

水稲の低コスト栽培技術として直播栽培面積が増加しているが、収量が1割程度低下するため、玄米60kg当たりの生産費はあまり低下していない。そこで、直播向き水稲品種「萌えみのり」の鉄コーティング種子を既に所有している作業機で散播し、収量を確保しつつ生産コストを低下させる栽培技術を開発する。あわせて、密封式鉄コーティングと慣行式鉄コーティングを比較検討し、出穂期や収量、品質の違いを明らかにする。

成果の内容・特徴

  • コーティング作業時間は、乾燥工程がない密封式が慣行式より短い(表1)。種子重量は密封式で乾籾重量比1.90倍、慣行式で1.68倍になる。産業用無人ヘリコプター(以下無人ヘリ)には乾籾10 kg分のコーティング種子を搭載できる。
  • 播種は5月上中旬に5 cmから10 cmの湛水状態で行う。作業時間は10a当たり背負式動力散布機で6.4±2.7分・人(畦畔より、平均±標準偏差)、無人ヘリで14.0±3.5分・人(3人作業)、乗用管理機で15.9±4.1分・人(2人作業)である。密封式は開封後発熱するため1時間以内に播種する必要があるが、散播の場合は播種時間が短いので発熱による種子損傷のリスクは低い(表1)。
  • 密封式は慣行式より1葉到達が約4日早いが、苗立率に差はなく、ほぼ50%~80%である(表2)。播種量5 kg/10aでほぼ目標の苗立数100-150本/m2が得られる。
  • 5月上中旬播種の場合、出穂期は8月中旬である(表3)。密封式は慣行式より出穂が2日早い。収量、検査等級、食味はコーティングによる差はなく、一般品種の移植栽培と同等である。稈長、倒伏程度もコーティングによる差はない。両コーティングとも倒伏程度は一般品種の移植栽培より小さい。
  • 無人ヘリで播種、追肥、薬剤散布をする体系では、作業時間は約6時間/10aで2009年統計値(全国15ha以上)の約40%に低下し、60kg当たり費用は統計値の約80%に低下する(表4)。
  • 密封式は個人や播種時期が遅い場合に適している(表1)。慣行式は農閑期に大規模にコーティングするのに適している。

成果の活用面・留意点

  • 基肥は窒素成分で約6 kg/10a、穂肥は約3 kg/10aとし、大豆跡では基肥を減らした現地試験の結果である。
  • 休眠打破処理を施した「萌えみのり」種子を用いた結果である。「萌えみのり」種子は休眠が強いので、慣行式の場合は40°Cの育苗器で5日から7日間処理する等の休眠打破処理をする。密封式の場合は発芽を確認する。
  • 「萌えみのり」は出穂期が「ひとめぼれ」より1日早い”中生の晩”で、耐冷性は”強”である。葉いもち抵抗性は”やや弱”、穂いもち抵抗性は”中”なので適切に防除する。
  • 密封式鉄コーティングは山形県開発の技術である(平成19年度研究成果情報)。

具体的データ

表1 各コーティングの特徴

表2 初期生育と苗立ち

表3 現地試験における出穂期、全刈収量、収量構成要素、検査等級と倒伏程度

表4「萌えみのり」散播栽培による米生産費用(無人ヘリ播種体系)

その他

  • 研究課題名:地域条件を活かした高生産性水田・畑輪作のキーテクノロジーの開発と現地
  • 実証に基づく輪作体系の確立
  • 中課題整理番号: 211k.3
  • 予算区分:委託プロ( 水田底力)
  • 研究期間:2007 年~2010 年
  • 研究担当者:白土宏之、大江和泉、持田秀之、迫田登稔、梶亮太、吉永悟志、小泉信三、福田あかり、山口弘道、福嶌陽、大平陽一、片岡知守