抗ペプチド抗体を用いる主要な小麦α-アミラーゼインヒビターの検出法

要約

小麦アレルゲンの一種である小麦α-アミラーゼインヒビターについて、エピトープを含む部分ペプチドに対する抗体を作製することにより、種類が異なるα-アミラーゼインヒビターやそのエピトープを検出できる。

  • キーワード:アレルギー、酵素免疫測定、イムノブロッティング、エピトープ、コムギ
  • 担当:東北農研・パン用小麦研究東北サブチーム
  • 代表連絡先:電話019-643-3414
  • 区分:東北農業・基盤技術、作物
  • 分類:研究・普及

背景・ねらい

小麦アレルゲンタンパク質の一種であるα-アミラーゼインヒビター(α-AI)には、分子量が13~15kDaのサブユニットで構成される単量体、二量体、四量体があり、それぞれアミノ酸配列が異なるため、小麦アレルギー患者により、反応するα-AIの種類が異なることが知られている。一方、単量体や二量体の小麦α-AIには、唾液や膵液のα-アミラーゼを阻害することから、血糖値上昇抑制効果が期待されている。しかし、種類が異なるα-AIの分別定量は容易でなく、さらにα-AIのエピトープ(ヒトIgE抗体が結合する部位)を検出する方法も未だないため、α-AIのアレルギー・代謝研究は進んでいない。
そこで、小麦α-AIのエピトープを含み、かつアミノ酸配列が異なる箇所のペプチドを複数合成して、それに対する抗体を作製することにより、単量体と二量体の小麦α-AIやそのエピトープ、および四量体の小麦α-AIを別々に検出する方法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 単量体(0.28型)および二量体(0.19型、0.53型)の小麦α-AIのエピトープであるAVLRDCを含む13-merの抗原ペプチドNGSQVPEAVLRDCを合成し、キャリアタンパク質に結合後、ウサギに投与することにより、抗0.19型抗体が得られる。同様に、四量体小麦α-AIのうち、主要なアレルゲンであるCM16の15-mer部分ペプチドCRIETPGSPYLAKQQから、抗CM16抗体が得られる(表1)。
  • 抗0.19型抗体は単量体と二量体のα-AIに結合するが、四量体のCM16には結合せず、抗CM16は単量体と二量体のα-AIには結合しない(表1)。
  • 抗体を用いるイムノブロッテイング法(図)や酵素免疫測定法(エライザ)により、異なる品種・系統の小麦種子に含まれるα-AI量を比較できる。
  • 小麦α-AIがプロテアーゼによって分解されても、そのエピトープが未分解の場合は、アレルギー反応性が残る。抗0.19型抗体は、単量体・二量体α-AIエピトープのみのペプチドAVLRDCにも結合するため、エピトープの分解を酵素免疫測定法で確認できる(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 本抗体の検査法を用いることにより、α-AI含有量が少ない、または逆にα-AI含有量が多い小麦品種・系統のスクリーニングに活用できる。
  • 本抗体を用いることにより、純度が高い単量体・二量体α-AIやCM16の調製が容易になる。
  • 消化管内におけるα-AIやそのエピトープの分解過程の解析が可能になるため、α-AIのアレルギー・代謝研究に活用できる。

具体的データ

表1 主要な小麦a-AI のアミノ酸配列(抜粋)と得られた抗体の結合性

図 小麦種子のα -AI 含有量比較例( イムノブロッティング)

表2 . 抗0.19 型抗体によるα-AI エピトープ分解の確認(酵素免疫測定法)

その他

  • 研究課題名:実需者ニーズに対応したパン・中華めん用等小麦品種の育成と加工・利用技術の開発
  • 中課題整理番号:311c
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2006~2010 年度
    研究担当者:老田 茂
  • 発表論文等:老田(2010)、日本食品科学工学会誌、57(11):489-491