クワシロカイガラムシ抵抗性のDNAマーカー選抜可能な「茶中間母本農4号(旧系統名 KM8)と「茶中間母本農5号」(旧系統名 KM62)」

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要約

「茶中間母本農4号」および「茶中間母本農5号」は「さやまかおり」由来のクワシロカイガラムシ抵抗性遺伝子MSR-1を有し、これに連 鎖するDNAマーカーにより後代の選抜が可能である。また炭疽病、輪斑病にも抵抗性であり、耐病虫性の交配母本として有用である。同時に緑茶品種の細胞質 の多様化にも貢献できる。

  • キーワード:チャ、KM8、KM62、クワシロカイガラムシ抵抗性、DNAマーカー選抜、耐病性、細胞質
  • 担当:野菜茶研・茶業研究部・育種素材開発チーム
  • 連絡先:電話0993-76-2126、電子メール tanajun@affrc.go.jp
  • 区分:野菜茶業・茶業
  • 分類:科学・普及

背景・ねらい

現在、単一のクローン品種「やぶきた」がわが国の茶園面積の約3/4を占めている。その他の品種も細胞質を「やぶきた」か ら引き継いでいるものが多い。「やぶきた」の寡占は摘採期の集中とともに、特定病害虫の多発の原因となっている。特にクワシロカイガラムシについては通常 の2.5-5倍の薬剤が散布されており問題視されている。チャ品種「さやまかおり」に由来する抵抗性遺伝子MSR-1が発見され、その実用的な選抜マー カーが開発された。クワシロカイガラムシ抵抗性についてはDNAマーカー選抜が可能であり、耐病性を有し、かつ緑茶品種の細胞質の多様化にも貢献できる中 間母本を育成する。

成果の内容・特徴

  • 「茶中間母本農4号」および「茶中間母本農5号」は炭疽病・輪斑病に抵抗性の「金-Ck17」を種子親、クワシロカイガラムシ抵抗性の「さやまかおり」を花粉親として1995年に交雑して得られた集団中より選抜した系統である(図1)。
  • 「茶中間母本農4号」および「茶中間母本農5号」は「さやまかおり」由来のクワシロカイガラムシ抵抗性遺伝子MSR-1を有しており、その後代は実用的なDNAマーカー選抜が可能である。図2にその例を示す。図2にその例を示す。
  • 「茶中間母本農4号」の一番茶の萌芽期・摘採期は中生、「茶中間母本農5号」は晩生である。
  • 「茶中間母本農4号」および「茶中間母本農5号」は耐病性は炭疽病・輪斑病に強であり(表1)、後代にも抵抗性強の個体が多数出現する(表2)。
  • 「茶中間母本農4号」の製茶品質は外観が優れるが、内質は水色が薄く滋味が淡白である。一方、「茶中間母本農5号」の製茶品質は水色が薄い点を除けば良好で、特に外観が優れ、内質も滋味が濃厚である(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 「茶中間母本農4号」×「さきみどり」のF1集団では早生~中生の個体が多く出現するのに対し、「茶中間母本農5号」×「さきみどり」のF1集団では中生~中晩生の個体が多く出現する。
  • 「茶中間母本農4号」および「茶中間母本農5号」の細胞質は種子親の「金-Ck17」に由来し、「やぶきた」型とも「あさつゆ」型とも異なるため、「茶中間母本農4号」または「茶中間母本農5号」を種子親側に用いることにより緑茶品種の細胞質の多様化に貢献できる。

具体的データ

図1 KM8およびKM62の来歴

図2 KM8後代のクワシロカイガラムシ抵抗性遺伝子MSR-1を識別するDNAマーカーの分離

表1 KM8およびKM62の一般特性および製茶品質

表2. KM8およびKM62のさきみどりとの交雑に由来するF1集団中の耐病虫性個体の出現と早晩性

その他

  • 研究課題名:チャのDNAマーカーの作出と高密度連鎖地図の作成
  • 課題ID:11-06-01-01-05-01
  • 予算区分:交付金、DNAマーカー
  • 研究期間:2002~2006年度
  • 研究担当者:田中淳一、吉田克志、武田善行、谷口郁也、荻野暁子
  • 発表論文等:1) 田中ら(2003)茶研報No.96(別):110-111.