チャの侵入新害虫チャトゲコナジラミとカンキツ害虫ミカントゲコナジラミの識別法

要約

チャの新害虫チャトゲコナジラミは、カンキツ害虫ミカントゲコナジラミとは遺伝的に異なる別種の侵入害虫である。両種は、mt-COI遺伝子、成虫前翅の白紋数、4齢幼虫外縁の白帯幅の違いなどにより識別できる。

  • キーワード:チャトゲコナジラミ、ミカントゲコナジラミ、侵入害虫、新害虫、mt-COI
  • 担当:環境保全型防除・天敵利用型害虫制御
  • 代表連絡先:電話 0547-45-4101
  • 研究所名:野菜茶業研究所・茶業研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

平成16年、京都で初確認されたチャ加害性のトゲコナジラミは、20世紀初頭に日本に侵入・定着してカンキツ類の害虫となったミカントゲコナジラミAleurocanthus spiniferusとは異なる新種のチャトゲコナジラミA. camelliaeであることが明らかとなった。現在本種の被害地域は急激に拡大しており、分布拡大防止策や適切な防除戦略の構築のためには、効率的なモニタリング法の確立が欠かせない。しかし、日本の本州以南には既にミカントゲコナジラミが広く分布するため、効率性が高い成虫の侵入モニター調査等においては両者を確実に識別する必要がある。そこで、両種の遺伝的関係を解明し、分子生物学的手法を用いて両種を確実に識別する手法を開発する。また、形態形質等を精査し、両種をより簡易かつ迅速に識別するための外部形態上の差異を見出す。

成果の内容・特徴

  • チャトゲコナジラミは、ミカントゲコナジラミと遺伝的に異なる別種である(図1)。日本に分布するチャトゲコナジラミのmt-COI遺伝子の塩基配列は全て同一であり、単一の遺伝子型しか認められない。一方、日本に分布するミカントゲコナジラミには、これと異なる単一の遺伝子型しか認められない(図1、表1)。
  • チャトゲコナジラミとミカントゲコナジラミは、それぞれのmt-COI遺伝子を種特異的に増幅するプライマーを使ったPCR産物の有無で識別できる(図2)。
  • チャトゲコナジラミとミカントゲコナジラミは、外部形態によっても識別可能である。チャトゲコナジラミでは4齢幼虫の白帯(幼虫外縁のワックス帯)の幅が狭く、ミカントゲコナジラミでは幅が広い。また、ミカントゲコナジラミの成虫の前翅には7個の白紋があるが、チャトゲコナジラミの白紋は9個である(図3)。
  • 中国には、日本に分布するものと同一のmt-COI遺伝子型を持つチャトゲコナジラミが分布する(図1)。また、この遺伝子型は、輸入植物検疫で発見された中国産ヒサカキ寄生のチャトゲコナジラミからも見つかっている(表1)。日本のチャトゲコナジラミは中国由来の侵入害虫である可能性が高い。
  • チャトゲコナジラミは、チャのほかヒサカキ、サザンカ、サンショウ、シキミなどの植物にも寄生し、ミカントゲコナジラミはカンキツ類のほかナンテンカズラなどにも寄生する(表1)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:普及・指導機関、行政機関、試験研究機関、茶生産者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国の茶生産都府県の茶栽培地域(46,800ha)。チャトゲコナジラミの未発地域では特に重要(対象害虫の識別)。
  • その他:チャトゲコナジラミの同定依頼は、野菜茶業研究所・茶業研究領域が窓口となり対応する。これまでに特殊報の発令協力10都県。2011年度農研機構シンポジウムにて成果公開。チャトゲコナジラミ防除マニュアルを農水省サイト等にて公開。
    http://www.maff.go.jp/j/syouan/syokubo/gaicyu/siryou2/index.html

具体的データ

図1 mt-COIの塩基配列による遺伝的類縁関係

図3 外部形態によるチャトゲコナジラミ(A)とミカントゲコナジラミ(B)の識別

表1 日本産チャトゲコナジラミおよびミカントゲコナジラミの遺伝子型と寄主植物

(佐藤安志、上杉龍士、上宮健吉)

その他

  • 中課題名:土着天敵等を利用した難防除害虫の安定制御技術の構築
  • 中課題番号:152b0
  • 予算区分:実用技術
  • 研究期間:2009~2011年度
  • 研究担当者:佐藤安志、上杉龍士(農研機構特別研究員)、上宮健吉(久留米大)、上田重文、笠井敦(京都府大)、山下幸司(京都茶研)、吉安裕(京都府大)
  • 発表論文等:1)Kanmiya, K. et al. (2011) Zootaxa 279:25-44.
    2)上杉龍士・佐藤安志 (2011) 応動昆、55:155-161.