小麦における低分子量グルテニン・サブユニット遺伝子型の分類

要約

2次元電気泳動法を用いた高精度分離とN末端アミノ酸配列の解析により、小麦の低分子量グルテニンの対立遺伝子を同定し遺伝子型を分類できる。また、本法によって得られた分類データは生地物性改良のための基礎的知見となる。

  • キーワード:コムギ、生地物性、低分子量グルテニン・サブユニット遺伝子型、2次元電気泳動法
  • 担当:近中四農研・作物開発部・育種工学研究室
  • 区分:近畿中国四国農業・生物工学、作物・冬作物
  • 分類:科学・参考
  • 連絡先:電話084-923-5344、電子メールtmikeda@affrc.go.jp

背景・ねらい

小麦の貯蔵タンパク質は主にグルテニンとグリアジンからなっており、小麦粉に水を加えてこねることによりグルテンが形成される。グルテニンの遺伝子型は生地物性に大きく影響することから、その育種的改良はパンやめん用小麦の品質向上には重要となる。グルテニンの中でも、低分子量グルテニン・サブユニット(LMW-GS)は、高分子量グルテニン・サブユニット(HMW-GS)と同様に生地物性に対する効果が示唆されているが、サブユニット数が多く、その遺伝子型のタンパク質レベルでの解析が困難であった。そこで、高精度2次元電気泳動法とN末端アミノ酸配列決定法を用いて、国内外の小麦品種におけるLMW-GSの対立遺伝子を同定し、個々の遺伝子座の生地物性に対する効果を明らかにするための基礎データを得る。

成果の内容・特徴

  • 国内外の103品種・系統についてグルテニン画分を2次元電気泳動法(IPGxSDS-PAGE)によって分離し、個々のサブユニットのN末端アミノ酸配列と遺伝子との対応付けから、Glu-A3 遺伝子座 (A)、Glu-B3 遺伝子座 (B)及びGlu-D3 遺伝子座 (D) にコードされるスポットが同定できる(図1)。
  • 本法を用いると,従来のSDS-PAGEを用いた分類法(Gupta and Shepherd (1990))より詳細な分類が可能となる(表1)。これまでGlu-A3 遺伝子座でe型(欠失型)に分類されてきた「AC Domain」,「Corrigin」,「Grandin」は、Glu-A3 遺伝子座にコードされるスポットを持ち、f型に分類できる。また、Glu-B3 遺伝子座にコードされる新規のスポットがb型とi型を持つ一部の品種・系統に共通に見出される(図1のBと表1のb*とi*)。
  • Glu-B3遺伝子座のスポットが欠失している品種(「キタノカオリ」及び「ハルイブキ」)はライコムギとの染色体置換(1BS.1RL)を持つj型と考えられる。
  • 「フクオトメ」はGlu-D3 遺伝子座のスポットの1つが欠失した新しい遺伝子型f型を持つ。
  • Glu-B3 遺伝子座について、日本品種(関東以西)のほとんどがi型であるのに対し、日本品種(北海道)とカナダ品種はh型、日本品種(東北)とオーストラリア品種はb型を持つ品種が多く、遺伝子型頻度に大きな偏りが見られ、交配母本品種の偏りを反映していると考えられる(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 本研究で得られたLMW-GS遺伝子型の分類データは、生地物性を改善するための成分育種に活用できる。
  • LMW-GS間及びHMW-GSとの相互作用はまだ十分に分かっていない。
  • 2次元電気泳動法(IPGxSDS-PAGE)で検出できないLMW-GSのアミノ酸の置換や挿入、欠失がある可能性がある。

具体的データ

図1.LMW-GS の2次元電気泳動像 Glu-A3 遺伝子座 (A)、Glu-B3 遺伝子座 (B)及び、Glu-D3 遺伝子座 (D)。

 

表1.主要小麦品種のLMW-GS (Glu-3) 遺伝子型

 

表2.Glu-B3 遺伝子型頻度の地域間差

 

 

その他

  • 研究課題名:小麦生地物性に関わるグルテン構成蛋白質の改良のためのプロテオーム解析
  • 課題ID:06-03-01-01-20-03
  • 予算区分:ブラニチ1系
  • 研究期間:2002~2004年度
  • 研究担当者:池田達哉、矢野 博
  • 発表論文等:1)T. M. Ikeda et al. (2004) The Gluten Proteins (The proceedings of the 8th gluten workshop) 101-104.