乾田化した耕作放棄田の土壌炭素変動

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要約

乾田化した耕作放棄田では、雑草の有機物由来の土壌炭素は増加するが、過去の水稲栽培時に貯留された土壌炭素の減少量が大きい。10年間放棄された圃場では土壌炭素量は少なくなる。

  • キーワード:土壌炭素、耕作放棄、炭素安定同位体比、農地管理、水田
  • 担当:近中四農研・暖地温暖化研究近中四サブチーム
  • 代表連絡先:電話084-923-4100
  • 区分:近畿中国四国農業・農業環境工学、共通基盤・農業気象
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書では、適切な農地管理により土壌炭素蓄積量を増加させることは温暖化緩和に貢献すると報告されている。耕作放棄地の拡大傾向は、日本の農地土壌炭素蓄積量を大きく変化させる可能性があるが、調査事例はほとんどない。そこで、放棄田の土壌炭素の調査を行い、耕作放棄に伴う土壌炭素蓄積量の増減を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 試験地は、隣接した放棄年数が異なる圃場で、土壌は黄色土である。放棄後乾田化した圃場で、優占植生はC4光合成回路を持つ雑草のアゼガヤとイヌビエである。
  • 深さ0-15cmの土壌炭素量は、放棄後2年の圃場に比べ10年の圃場で0.3 kg /m2少ない(図1)。放棄年数が10年の場合、表層5cmの土壌炭素量は増加するが、5cm以下の土壌炭素量は減少する(図2)。
  • C3光合成回路を持つ稲体の炭素安定同位体比の平均値は約-28‰、C4光合成回路を持つ植物の平均値は約-12‰である。放棄後2年の圃場に比べ、放棄後5年、10年の圃場では土壌炭素の炭素安定同位体比は高い(図3)。放棄後5年、10年の圃場の土壌には、C4光合成回路を持つ雑草由来の有機物が含まれる割合が高いため、炭素安定同位体比は高くなる。
  • 耕作放棄に伴い土壌炭素量が減少した。雑草有機物由来の炭素供給量より、水稲栽培時に貯留された炭素の減少量の方が大きいためと考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 放棄期間10年までの調査だが、耕作放棄地の土壌炭素動態に着目した研究事例は国内にほとんど無く、農地土壌の炭素蓄積量の変動を把握する上で重要な知見である。
  • 土壌の種類や環境条件によって土壌炭素量の変動速度は異なる可能性があり、多湿な放棄田や休耕した畑地の場合は、土壌炭素増減の機構が異なる可能性がある。

具体的データ

図1.放棄年数の異なる圃場の深さ0-15cmの土壌炭素量

図2.放棄年数の異なる圃場の層位別の土壌炭素量

図3.放棄年数の異なる圃場の深さ0-15cmの土壌炭素安定同位体比

その他

  • 研究課題名:暖地・温暖地における気候温暖化等環境変動に対応した農業生産管理技術の開発
  • 課題ID:215-a
  • 予算区分:委託プロ(温暖化)
  • 研究期間:2008年度
  • 研究担当者:下田星児
  • 発表論文等:Shimoda (2008) 農業気象64(4):289-293.