暑熱期における寒冷紗を用いたひ陰舎の防暑効果

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要約

農業用の寒冷紗を用いて太陽からの放射熱を防ぐと、牛の平均体温の上昇を0.7-0.8°C抑えられ、呼吸数も平常時の範囲に保たれる。寒冷紗によるひ陰は黒毛和種の放牧において十分な防暑効果が見込める。

  • キーワード:暑熱、ひ陰舎、寒冷紗、平均体温、呼吸数
  • 担当:近中四農研・産学官連携推進センター(兼:粗飼料多給型高品質牛肉研究チーム)
  • 代表連絡先:電話0854-82-0144
  • 区分:近畿中国四国農業・畜産草地、畜産草地
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

中四国の黒毛和種の放牧において、寒冷紗を用いた簡易なひ陰舎が利用されている。そこで牛を用いたフィールドでの実証的試験により、寒冷紗が太陽からの放射熱を防ぎ、牛に対する暑熱の影響を軽減する効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 遮光率51%の黒色農業用寒冷紗を2重に張った、ひ陰舎(6000mm4000mm)を放牧地の中に設置した。高さは、2600mmと2100mmの片屋根式である。足場パイプと自在クランプを用いて柱と梁を組み上げる。梁の上にどうづき(幅30mm,厚さ10mmくらいの細長い板)を針金で固定し、これに寒冷紗を板ではさみビス止めして張り付ける。
  • 試験日の天候は晴れ。風速は3m/sec以下、全天日射量は21-28MJ/㎡である。日射下とひ陰舎下での環境温度は、乾球温度(DBT)、湿球温度(WBT)、黒球温度(GT)のいずれもひ陰舎下で有意(P<0.01) に低く、特に放射熱を反映する黒球温度の差が大きい(図1)。DBTとGTから算出される体感温度ETはひ陰舎下で約4°C低く推移する(P<0.01) (図1)。
  • 供試牛は計6頭、平均体重531kgである。日射下とひ陰舎下での牛の生理指標の比較では、直腸温(RT)に顕著な違いはないが、直腸温と平均皮膚表面温(mTs)(剃毛)から算出される平均体温(Tb)は0.7-0.8°C、有意(P<0.01) にひ陰舎下の方が低く保たれる(図2)。
  • 呼吸数(RR)は日射下では100回/分以上まで上昇したが、ひ陰舎下では、その上昇が抑制される(P<0.01)(図2)。
  • 夏季のひ陰舎の利用率(ひ陰舎利用時間/総観察時間、%)は61-81%で牛によく利用され、ひ陰舎として有用であると考えられる(表1)。
  • 牛の平均体温0.2°Cの差は代謝体重あたり5kJの差に相当するので、0.8°Cでは20kJと大きな差である。平均体温は直腸温や膣温よりも環境変化に対する反応が早く良い指標とされていたが、実験施設内で決定されたため、屋外日射下で適用できるかどうかはわかっていなかった。本研究で平均体温は、屋外日射下で0.7-0.8°C変化するので、暑熱の影響がわかりやすく放牧などの屋外飼養の場面でも有効な指標であるといえる。

成果の活用面・留意点

  • これまで、一部経験的に設置が簡易な寒冷紗が使われているが、その日射に対する有用性が明らかになったため、普及にはずみがつくと考えられる。
  • 生理指標の測定は、ちょ立安静の状態で行うため、牛をスタンチョンに保定している。

具体的データ

図1 黒球温度と体感温度

図2 呼吸数と平均体温

表1 黒毛和種による9:00-18:00のひ陰舎の利用率

その他

  • 研究課題名:地域条件を活かした健全な家畜飼養のための放牧技術の開発
  • 中課題整理番号:212d.3
  • 予算区分:基盤、実用技術
  • 研究期間:2006~2007年度
  • 研究担当者:安藤哲
  • 発表論文等:安藤(2009)日畜会報、80(4):451-456