茎葉多収で糖含有率が高い稲発酵粗飼料用水稲品種「たちすずか」

要約

「たちすずか」は「クサノホシ」と比較し牛に消化されやすい茎葉の割合が高く、耐倒伏性が強い。また糖含有率と中性デタージェント繊維の消化率が高いため、稲発酵粗飼料用の専用品種として適する。

  • キーワード:イネ、飼料、稲発酵粗飼料、未消化籾、糖、耐倒伏性
  • 担当:自給飼料生産・利用・飼料用稲品種開発
  • 代表連絡先:電話 084-923-4100
  • 研究所名:近畿中国四国農業研究センター・水田作研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

稲発酵粗飼料として利用できる品種として、近畿中国四国地域においては「クサノホシ」「ホシアオバ」が普及しているが、栽培面では天候不順等により収穫適期を逃し、倒伏によって収穫が困難となる場面も多く、改善が求められている。収穫・調製においては、糖分の不足等による不良発酵の問題があり、給与面では、未消化籾の排泄の問題が依然として残されている。これらのことから、茎葉の割合が高いことで牛に消化されやすく、収穫期の糖含有率が高く、耐倒伏性に優れる稲発酵粗飼料用水稲品種を育成する。

成果の内容・特徴

「たちすずか」は「クサノホシ」と比較して、次の特性を示す。

  • 「たちすずか」は「中国147号」(後の「クサノホシ」)と「極短穂(00個選11)」との人工交配に由来する粳種である。
  • 出穂期が「クサノホシ」より4日程度遅い"極晩生"である(表1)。
  • 耐倒伏性は「クサノホシ」より明らかに強く"極強"であり、移植栽培では出穂後3カ月を過ぎても倒伏しにくい。また湛水直播、乾田直播でも倒れにくい(表1)。
  • 地際刈りでの全乾物重は「クサノホシ」「リーフスター」並かやや多い(表1)。
  • 「クサノホシ」「リーフスター」より茎葉の割合が多く、籾の割合が少ない(表1)。
  • サイレージ発酵に必要な糖の含有率が「クサノホシ」より高く、サイレージのpHは「クサノホシ」より低い(表1)。
  • サイレージ中の中性デタージェント繊維(NDF)の消化率が「クサノホシ」より高い(表1)。
  • 「たちすずか」のサイレージを給与した乳牛は「クサノホシ」のサイレージを給与した乳牛よりも乳量が多く、泌乳前期の体重減少が抑えられる(図1)。

普及のための参考情報

  • 普及予定地域は関東以西、普及予定面積は約700haを見込んでいる。広島、岡山、鳥取の各県では種子の供給体制が確立されており、2012年の作付見込は200haを超える。
  • いもち病に対しては真性抵抗性を有し通常は発病しないが、変異菌の出現により罹病化する可能性があるので注意し、発病を見た場合には必ず防除を行う。また、縞葉枯病に罹病性であるため常発地帯では作付けしない。
  • 長稈のため収穫の際には機械を詰まらせることがないよう速度に注意する。
  • 籾の収量が低く種子生産の効率が低いため、採種栽培においては通常より広い面積が必要となる。また栽培法によって種子の収量が大きく変化するため、採種栽培においては関連する研究成果を参考とする(成果情報:http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/laboratory/warc/2010/wenarc10-04.html)。
  • 「たちすずか」は2010年6月に品種登録出願公表された(品種登録出願第24752号)。

具体的データ

表1 「たちすずか」の特性一覧

図1 稲発酵粗飼料サイレージ給与牛における乾物摂取量、乳量および体重変化量の品種間差    (広島県立総合技術研究所畜産技術センター、2010-2011)

(松下 景)

その他

  • 中課題名:低コスト栽培向きの飼料用米品種及び稲発酵粗飼料用品種の育成
  • 中課題番号:120a0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(国産飼料)
  • 研究期間:2001~2011年度
  • 研究担当者:松下景、石井卓朗、飯田修一、出田収、春原嘉弘、前田英郎、田村泰章
  • 発表論文等:Matsushita K. et al. (2011) Breed. Sci. 61:86-92