飛翔能力を欠くナミテントウ製剤の利用技術マニュアル

要約

施設野菜において、飛翔能力を欠くナミテントウ2齢幼虫を畝ごとに1m2あたり10~13頭、1週間間隔で2回以上放飼することでアブラムシ類を効果的に防除できる。アブラムシ類が既に多発生している場合は、気門封鎖剤などで密度を低下させた後に放飼する。

  • キーワード:ナミテントウ、飛翔不能化、アブラムシ類、生物農薬、施設野菜
  • 担当:環境保全型農業システム・環境保全型野菜生産
  • 代表連絡先:電話 084-923-4100
  • 研究所名:近畿中国四国農業研究センター・水田作研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

近年ワタアブラムシのネオニコチノイド系殺虫剤に対する感受性が低下している事例が各地で確認されており、化学農薬に替わる防除手法の開発とその実用化が急務である。農研機構近畿中国四国農業研究センターで育成された飛翔能力を欠くナミテントウは、複数の作物でアブラムシ類に対する高い防除効果が確認されており、2014年より天敵製剤(商品名:「テントップ」)として販売されている。そこで、本製剤の効果的な利用方法および使用する際の留意点などを把握してもらうため、利用技術マニュアルを作成し、普及・指導機関や生産者などへの普及を図る。

成果の内容・特徴

  • 飛翔能力を欠くナミテントウは、幼虫の段階で放飼する。放飼した幼虫のうちの一部は成虫になった後も作物上に長く定着する(例えば施設ナスでは10~20%程度)。飛翔能力を欠くナミテントウを利用することで化学農薬によるアブラムシ類の防除が不要になり、害虫防除に使用される薬剤の散布回数を慣行よりも15~25%削減できる。
  • 既存のナミテントウ製剤が成虫であるのに対し、本剤は生産コストを抑えるため2齢幼虫を成分とする(200頭入り)。容器の穴からオガクズと共に1振りで約1~2頭出てくる。容器内では長期間生存できないため、入手後は到着日中に使いきるようにする。
  • 施設のコマツナ、イチゴ、ナスにおいては、アブラムシ類の発生を確認したら直ちに本製剤を入手し、1m2あたり10~13頭、1週間間隔で2回以上放飼する(表1)。ナミテントウは同じ畝の上を歩き回る傾向があるので、畝ごとに放飼する。アブラムシ類の生息密度が高くなってからの放飼では、十分な効果が得られないことがあるので、気門封鎖剤などでいったんアブラムシ類の密度を低下させてから放飼する。
  • 他の病害虫防除のための殺虫剤・殺菌剤については、ナミテントウに影響の小さいものを使用する(表2)。特に、有機リン系、ピレスロイド系、ネオニコチノイド系殺虫剤は長期間(1ヵ月以上)の影響が懸念されるため十分に留意する。殺虫活性がなくても、薬剤散布によって濡れたマルチ面に転落した成虫がトラップされ、放飼個体が死亡することがある。株間に敷きワラを設置するなどの対策を施すことで、薬剤散布による物理的影響を軽減できる。

普及のための参考情報

  • 普及対象:普及・指導機関および施設野菜生産者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:近畿中国四国地方の5府県において、利用マニュアル記載のナス(99.1ha)、コマツナ(84.7ha)、イチゴ(232.6ha)など、施設野菜産地の約20%の面積、および普及機関での技術指導に利用される。
  • マニュアルに関する問い合わせ先:近畿中国四国農業研究センター。下記サイトにて、利用技術マニュアルを公開予定(http://www.naro.affrc.go.jp/warc/)。
  • 製剤に関する問い合わせ先:株式会社アグリ総研

具体的データ

表1~2

その他

  • 中課題名:土壌病虫害診断と耕種的防除技術開発による野菜の環境保全型生産システムの構築
  • 中課題整理番号:153a2
  • 予算区分:交付金、実用技術
  • 研究期間:2008~2010年度
  • 研究担当者:世古智一、三浦一芸、宮竹貴久(岡山大学)、柴尾 学(大阪環農水研)、安達鉄矢(大阪環農水研)、八瀬順也(兵庫農技総セ)、田中雅也(兵庫農技総セ)、国本佳範(奈良農総セ)、井口雅裕(和歌山農総セ)、中野昭雄(徳島農総技支セ)、須見綾仁(徳島農総技支セ)、兼田武典(徳島農総技支セ)、手塚俊行(アグリ総研)、小原慎司(アグリ総研)
  • 発表論文等:
    1)世古(2011)植物防疫、65: 705-710.
    2)田中ら(2012)植物防疫、66: 568-572.
    3)Adachi-Hagimori et al. (2011)BioControl、56: 207-213.
    4)「遺伝的に飛翔能力を欠くテントウムシの作出方法」特開2010183902