植物バイオマスを用いた土壌還元消毒の効果と嫌気性細菌の動態

要約

カラシナやダイコン残渣などの植物バイオマスを用いた土壌還元消毒法は、ホウレンソウ萎凋病に対し顕著な発病抑制効果がある。土壌還元消毒では、酢酸、酪酸などの抗菌物質を産生するクロストリジウム属菌などの嫌気性細菌が一時的に土壌に集積する。

  • キーワード:カラシナ、ダイコン残渣、嫌気性細菌、土壌還元
  • 担当:環境保全型農業システム・環境保全型野菜生産
  • 代表連絡先:電話 084-923-4100
  • 研究所名:近畿中国四国農業研究センター・水田作研究領域、環境保全型野菜研究領域、営農・環境研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

臭化メチルの使用禁止と環境保全的取り組みの浸透を背景として、薬剤を用いない土壌病害の防除法開発が望まれている。ホウレンソウ萎凋病(Fusarium oxysporumによる)などの土壌病害に対し、地域で得られる植物バイオマスを用いた土壌還元消毒法の効果を検証するとともに、消毒における土壌細菌の関与を調査して、安定した効果の発現条件を探る。

成果の内容・特徴

  • カラシナ(Brassica juncea)をハウス内で栽培して夏季に鋤き込み(3~5t/10a)、圃場容水量以上の灌水を行って透明シートで3週間程度被覆(密封)すると、後作のホウレンソウ萎凋病が顕著に抑制され、収量が向上する(図1)。
  • 地域のダイコン産地から排出される残渣を鋤き込み(15~20t/10a)、同様の処理をすると、ホウレンソウ萎凋病を抑制することができる(図2)。土壌消毒効果は、植物バイオマスとしてブロッコリー残渣やエンバクなどを用いた場合(3~5t/10a鋤き込み)にも得られる。
  • 植物バイオマスを混和して灌水・被覆(密封)した場合、フスマを用いた場合と同様に土壌が還元状態となり、クロストリジウム(Clostridium)属菌を主体とする偏性嫌気性細菌が土壌中に優占してくる。カラシナやエンバクの混和処理中の土壌温度は、25°Cより30°Cの方が酢酸の生成量が多く、病原菌死滅効果が高い(図3)。
  • 殺菌効果の認められた処理土壌から優占的に分離されるクロストリジウム属菌は、Clostridium saccharobutylicumC. xylanovoransC. sufflavumC. tyrobutyricumC. pasteurianumなどと考えられ、酢酸、酪酸などの抗菌性物質を生成する。処理後に作物を栽培すると多様な微生物相が回復する。

成果の活用面・留意点

  • 本防除法を含めて取りまとめたホウレンソウなどの有機栽培マニュアル(有機農業実践の手引き)が、ホームページ上で利用できる(有機農業実践の手引き:46-77(第4章)http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/laboratory/narc/manual/046975.html)。
  • 植物バイオマスを用いて土壌還元消毒を行った場合、処理土壌中で増殖した嫌気性細菌が生成する酢酸、酪酸以外に、カラシナなどから生じるイソチオシアネート類など他の作用機構も殺菌効果に関わっている可能性がある。
  • 傾斜圃場では、散水に水圧補正チューブを利用すると、水圧が変わっても吐出水量が一定となり、均一な散水により土壌水分を確保できる。
  • 鋤き込む植物バイオマスの種類や量による消毒効果の違いについては、更に検討する必要がある。また、鋤き込む植物の緑肥的効果については、種類や量により違いがあるため、土壌診断に基づき施肥量を調節する必要がある。

具体的データ

図1~3

その他

  • 中課題名:土壌病虫害診断と耕種的防除技術開発による野菜の環境保全型生産システムの構築
  • 中課題整理番号:153a2
  • 予算区分:交付金、委託プロ(省資源、気候変動)
  • 研究期間:2009~2012年度
  • 研究担当者:竹原利明、吉田祐子、須賀有子、石岡 厳、伊藤陽子、関口博之、野見山孝司、富岡啓介、藤井義晴(東京農工大)、上木厚子(山形大)、前川和正(兵庫農総セ)、福嶋 昭(兵庫農総セ)、竹川昌宏(兵庫農総セ)、中野智彦(奈良農総セ)、森岡 正(奈良農総セ)、安川人央(奈良農総セ)、神川 諭(奈良農総セ)、安田文俊(鳥取園試)、井上 興(山口農総セ)、徳永哲夫(山口農総セ)、広田恵介(徳島農総セ)、亀代美香(徳島農総セ)、三宅圭(徳島農総セ)、堀北直樹(徳島農総セ)、村井恒治(徳島農総セ)
  • 発表論文等:
    1)Mowlick, S. et al.(2013)AMB Express、3:46 (http://www.amb-express.com/content/3/1/46).
    2)前川ら(2011)関西病虫研報、53:83-85.
    3)安川ら(2012)奈良農総セ研報、43:11-16. 4)Mowlick S. et al.(2013) Crop Protection、54:185-193.