土壌還元消毒時の大気中への一酸化二窒素放出はごく僅かである

要約

緑肥作物を用いた土壌還元消毒は温室効果ガスの一酸化二窒素の発生条件と類似した処理だが、一酸化二窒素は処理直後のごく短期間しか被覆内部に存在せず、大気への放出量はごく僅かである。また、ガス難透過性フィルムを用いれば放出量を更に低減できる。

  • キーワード:土壌還元消毒、温室効果ガス、一酸化二窒素、ガス難透過性フィルム、緑肥
  • 担当:環境保全型農業システム・環境保全型野菜生産
  • 代表連絡先:電話 084-923-4100
  • 研究所名:近畿中国四国農業研究センター・営農・環境研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

オゾン層破壊物質である臭化メチルの使用禁止と環境保全的な取り組みの浸透を背景として、薬剤を用いない土壌病害虫防除法の開発が進められており、そのような手法の一つとして土壌還元消毒があげられる。しかし、温室効果ガスであり、かつオゾン層破壊物質でもある一酸化二窒素(N2O)は、畑地において化学肥料や有機物の多施用、土壌水分過多により放出量が増加することが知られており、土壌還元消毒で鋤込み資材として緑肥作物を用いた場合、植物体の鋤込み後に灌水するため、多量のN2Oが放出される恐れがある。そこで、土壌還元消毒時のN2O発生状況を確認するとともに、その放出量の低減方法を検討する。

成果の内容・特徴

  • 緑肥作物として開花期のヒマワリ6.1~7.1kg/m2を7月に鋤込み、灌水・被覆後に被覆の外縁を土中に埋め込むことにより被覆辺縁からのガス交換を遮断して土壌還元消毒を実施し、被覆内部のN2O濃度および被覆を透過して大気中に放出されるN2Oフラックスを測定した結果である。なお、対照として鋤込み資材なし、灌水あり、被覆なしでの測定を実施している。
  • 被覆内部のN2O濃度は、通常の土壌還元消毒処理である「鋤込み資材あり」では、土壌還元消毒期間の初期にわずかに増加するが、速やかに減少する。その後は被覆内部のN2O濃度は大気レベル以下である(図1a)。一方、対照とした「鋤込み資材なし」では、長期間に渡って被覆内部に多量のN2Oが存在する場合がある(図1b)。
  • 通常の土壌還元消毒処理である「鋤込み資材あり・被覆あり」の場合、大気中へはN2Oがほとんど放出されないが(図2a○●)、対照とした「鋤込み資材なし」の場合、被覆の有無にかかわらず、作物残渣の鋤き込みを行った後に降雨があった場合に相当する「鋤込み資材あり・被覆なし」(図2a●)と同等あるいはそれ以上に放出される(図2b)。
  • 被覆期間中において、被覆資材としてガス難透過性フィルムを用いれば、被覆内部のN2O濃度が高くても大気中へのN2Oの放出を抑制することができる(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 試験は西日本の露地圃場(野菜畑)の緻密な灰色低地土(仮比重1.48g/cm3)で行われた。灌水量は約55L/m2である。
  • ガス難透過性フィルムは、ポリビニルアルコールフィルムの両面をポリエチレンフィルムで挟んだ3層構造のものであり(厚さ0.05mm)、酸素透過度は一般のポリエチレンフィルムの1/150程度である。ガス透過抑制効果はガスの種類により異なり、温度上昇により低下するという室内試験での報告があるため、放出低減効果の正確な評価には、より詳細な試験が必要である。

具体的データ

図1~,表1~

その他

  • 中課題名:土壌病虫害診断と耕種的防除技術開発による野菜の環境保全型生産システムの構築
  • 中課題整理番号:153a2
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2013~2014年度
  • 研究担当者:石岡厳、竹原利明
  • 発表論文等:石岡ら(2014)土肥誌、85(4):341-348