高温期ホウレンソウの収穫前遮光除去・晴天日遭遇後収穫による品質向上技術

要約

高温期ホウレンソウにおける遮光栽培で、出荷基準を満たす草丈を確保した上で、硝酸含量を低減し、アスコルビン酸含量、株重・葉色の向上を図るためには、草丈20cm程度で遮光資材を除去し、5~8日経過した後に晴天が2日続いた翌日の午前中に収穫する。

  • キーワード:ホウレンソウ、遮光除去、アスコルビン酸、硝酸、株重・葉色
  • 担当:環境保全型農業システム・環境保全型野菜生産
  • 代表連絡先:電話0773-42-0109
  • 研究所名:近畿中国四国農業研究センター・環境保全型野菜研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

ホウレンソウは高温に弱いため、夏季高温期には草丈の伸長促進の目的で、本州平地では遮光栽培が行われ、慣行では栽培全期間で遮光が行われている。全期間遮光による問題として、有用成分であるアスコルビン酸含量の低下、過剰な摂取は望ましくない成分である硝酸含量の増加、葉色が薄く徒長気味の外観となる「品質低下」がある。 そこで、高温期ホウレンソウの遮光栽培における収穫前の遮光資材除去(以下、「遮光除去」)および収穫前の天候の考慮による品質向上技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 遮光除去後のアスコルビン酸含量の向上に必要な期間は1日程度(図1)、硝酸含量の低減に必要な期間は2~3日程度、外観品質(株重・葉色)の改善には7~10日を要する。
  • アスコルビン酸含量は収穫前日の日射量と相関が高く(図2)、硝酸含量は収穫2日前の日射量と負の相関が高い。
  • 遮光除去するとそれ以降の草丈の伸長が遅れるため、ホウレンソウにおける出荷最低基準の草丈20cmまでは遮光する必要がある。
  • 遮光除去・再設置作業を容易にするために、播種後からハウス内にトンネル状に遮光資材(近畿地域では遮光率45~60%の白色の資材)を設置し(図3)、草丈20cm程度で遮光除去する。遮光除去作業は夕方に行い、翌日以降、晴天の場合は葉水を行うなどし、葉やけに注意する。遮光除去後5~8日経過した後に晴天が2日続いた翌日の午前中に収穫する。
  • 実際に、慣行の栽培全期間遮光(遮光継続)と比較して、新たな遮光栽培法(遮光除去)では硝酸含量が低減され、アスコルビン酸含量および株重・葉色も向上する。草丈は、出荷最適サイズである25~30cmの範囲内となる(図4)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:ホウレンソウ生産者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:本州平地の雨よけハウスを使用した夏作ホウレンソウの遮光栽培地域、生産規模は10~20a程度。
  • その他:高温期の土壌病害・虫害対策、適切なかん水などの栽培管理があわせて必要である。
    アスコルビン酸含量および硝酸含量については、小型反射式光度計を用いた試験紙による簡易な測定方法があり、生産現場で測定可能である。
    本技術の導入により、収穫株数にほぼ変化はなく、1株重が約1.4倍となることから、収量および売上額が約1.4倍になると見込まれる。生産者手取り額は500~1,000円/kg、夏作ホウレンソウは1~2作/年とした場合、売上額増加は10,300円~41,200円/年/aとなり、トンネル遮光導入のための投資額は、資材耐久年数を5年とした場合4,900円/年であるため、経営上導入可能である。

具体的データ

図1~4

その他

  • 中課題名:土壌病虫害診断と耕種的防除技術開発による野菜の環境保全型生産システムの構築
  • 中課題整理番号:153a2
  • 予算区分:交付金、委託プロ(ブランド・ニッポン)、委託プロ(温暖化)、委託プロ(気候変動)
  • 研究期間:2004~2015年度
  • 研究担当者:吉田祐子、浜本浩、山崎敬亮、村上健二、生駒泰基
  • 発表論文等:
    1)吉田ら(2008)園学研、7(3):399-405
    2)吉田、浜本(2010)園学研、9(3):333-338
    3)農研機構(2013)「高温期ホウレンソウの品質向上マニュアル」(2013年3月26日)