プレスリリース
果樹生産の軽労化に貢献する高所作業台車を開発

- 水平制御装置により2mの昇降でも快適高所作業を実現 -

情報公開日:2010年12月14日 (火曜日)

ポイント

  • 小回りが効き、高さ4.0mの果樹でも水平制御装置により安定した作業を実現
  • 小型で軽トラックに積載可能
  • 平成23年度市販化予定

概要

(独)農研機構【理事長 堀江 武】生研センターでは、第4次農業機械等緊急開発事業において、株式会社サンワと共同で、小型で小回りが利き、作業台の水平制御装置を持つ高機動型の高所作業台車(以下、「開発機」)を開発しました。開発機は平成23年度に市販化予定です。

開発機は小型で軽トラックに積載可能であること、水平制御装置により高所でも安定した作業台上で作業できること、大きい操舵角で小回りが利くこと、電動式であるため静かな環境で作業ができることなどの特徴があります。

予算:運営費交付金

特許:特願2009―255218(出願中)、特願2009―257032(出願中)


詳細情報

開発の背景と経緯

  • りんごなど果樹栽培は、機械化が進展していない分野の1つであり、高齢化が進む中で、後継者不足も深刻化しています。果樹用機械としては、労働時間の約6割を占めている授粉、摘果、収穫等に幅広く利用できる高所作業車が市販されているものの、機体が大きいこと、小回りが利かないこと等から普及がそれほど進んでいませんでした。
  • 一方で、こうした作業に広く用いられている脚立は、不安定で危険が伴う上に、持ち運びを要するなど労働負担の面からも問題があり、脚立に代わるような小型で機動性の高い高所作業台車の開発が新たに必要となっていました。
  • そこで、平成20年度からの第4次農業機械等緊急開発事業において、小型で小回りが利く作業台車の開発を(株)サンワと共同で進めてきました。また、現地での試験などは、青森県産業技術センターりんご研究所、福島県農業総合センター果樹研究所の協力を得て、上記1と2の問題を改善できる高所作業台車の開発に取り組んできました。

高機動型果樹用高所作業台車の概要

  • 開発機の走行・操舵方式は、簡易な構造で高い機動性を持つ、車輪式2輪駆動2輪操舵です(図1、図2、表1)。約4mの高所での作業が可能なように作業台は2mまで昇降できます。開発機は軽トラックに積載できる寸法としました。また、動力源が電動ですから静かな環境で作業をすることが可能です。
  • 開発機には荷台の水平制御機能を組み込んであり、高所でも安定した作業台上で作業ができます。水平制御機能は、傾斜検出用センサで車体の傾斜を検出し、傾きに対して、電動油圧シリンダを伸縮させて作業台を常に水平に制御するものです。
  • 水平制御機能により、張り出し板上に作業者が乗った状態でも静的転倒角が23 ゚となり、安全鑑定基準の15 ゚を優にクリアしています。作業台最高高さ2mで走行可能で効率的に作業できますが、作業台最高位置での走行速度は安全鑑定基準の1km/h以下に自動的に制限されます。
  • 開発機のハンドルは自転車のハンドルのような形状であり、ハンドルを回転させることで操舵します。簡易な構造で操舵角を最大60 ゚と大きくとり、旋回半径約2mの小回りが利く構造としました。
  • 開発機は、操舵回数を減らして効率的に作業するために、樹体への作業者の接近を容易にする電動張り出し板を備えています。

作業性能

  • 開発機によるリンゴ普通樹の摘葉作業では、比較対象とした市販電動作業台車と比較してより高い位置まで作業台が上がること、張り出し板の活用により枝への接近のための操舵時間が少なくなることから、1時間当たりの処理果数は約270果から約360果へと約33%多くなりました。普通樹は枝の広がりがわい化樹より大きいので、脚立の持ち運びが頻繁になりますが、開発機では樹冠下で枝をよけて効率的に移動、昇降、張り出し板利用ができますので、1時間当たりの処理果数が脚立と比べて約250果から約360果へと46%多くなりました(図3)。
  • リンゴわい化樹での市販電動作業台車の作業では、樹体に近づくための繰り返し操舵が多くなりますが、開発機では張り出し板で枝に接近できることから樹列に沿っての直線的な走行が可能となるため、操舵回数が極端に少なくなります。開発機により摘葉作業を行った結果、市販電動作業台車と比べて1時間当たりの処理果数が約150果から約250果へと43%多くなりました(図4)。

今後の予定・期待

平成22年11月5日に福島県農業総合センター果樹研究所で現地検討会を実施しました。今後も開発した高所作業台車の実演会を積極的に行う等、普及促進のための活動を続けていきます。また、本開発機は、平成23年度市販化予定で、果実生産の省力化に貢献していきます。

図1 開発機の写真、図2 開発機の構造、図3 りんご普通樹における摘葉作業率、図4 りんごわい化樹におけつ摘葉作業能率、表1 主要諸元