プレスリリース
農薬飛散低減効果の高いスピードスプレヤー用ノズル

- 最大1/10程度にドリフトを抑制可能 -

情報公開日:2010年12月14日 (火曜日)

ポイント

  • 工具を使わずに既存の国産スピードスプレヤーに装着可能
  • 薬液の噴霧粒径を慣行ノズルの3倍以上にすることでドリフト低減
  • 薬液付着性能、防除効果は既存の慣行ノズルと同等
  • 平成23年度実用化予定

概要

(独)農研機構【理事長 堀江 武】生研センターでは、第4次農業機械等緊急開発事業において、ヤマホ工業株式会社、株式会社丸山製作所と共同で、果樹園で使用されるスピードスプレヤー(以下:SS)に装着するドリフト低減ノズルを開発しました。開発ノズルは、平成23年度に市販化予定です。

開発したノズルは異なる粒径の薬液を噴霧する2種類のノズルを組み合わせて使用します。わい化栽培りんご園では、慣行ノズルに比べ、散布地点から同じ距離だけ離れた地点で最大1/10程度にドリフトを低減することが可能です。さらに、慣行ノズルと概ね同等の付着性能が期待できるため、慣行作業と同じ方法(農薬の種類、希釈倍率、散布量)で使用した場合、対象作物や病害虫および作業方法等が同じであれば、概ね慣行ノズルと同等の防除効果が期待できます。

予算:運営費交付金


詳細情報

開発の背景と経緯

食品衛生法の改正による残留農薬のポジティブリスト制度が平成18年5月から施行されています。これに伴い、それまで農作物における農薬の残留基準が設定されていないことから規制の対象外であった農薬についても0.01ppmという一律基準が設定され、この基準を超過した場合にはその農作物の流通が禁止されることとなりました。このため、病害虫防除のための農薬散布において、意図しない農薬飛散による残留基準超過のおそれがあり、これまで以上に農薬の適正使用と農薬飛散に対する注意と対策が必要です。果樹栽培において、効率的かつ省力的な農薬散布作業を行うための機械として普及しているSSは、一般的に利用される地上防除機の中では最もドリフト発生リスクが大きい機械です。そこで、積極的なドリフト防止対策が必要なことから、SSおよびSS用ドリフト低減ノズルについて研究開発を行いました。

ドリフト低減型ノズルの概要

  • それぞれ特徴の異なるノズル1とノズル2の2種類のノズルを開発しました(図1、図2、表1)。2種類のノズルを用いたのは、付着性能を維持しつつドリフト低減を狙うためです。現在、一般的に使用されている慣行ノズルは噴霧形状が中空円錐形(図3b)ですが、今回開発したノズルはどちらも扇形(図3a)をしており、フラットに噴霧粒子を噴霧し、中空円錐形に比べて薬液の到達性が良く、さらに散布の均一性が高いのが特徴です。ノズル1は、噴霧させる前にノズル内に空気を取り込むことで噴霧粒径を大きくし、より高いドリフト低減効果を狙ったノズルで、噴霧粒径は慣行ノズルの約4倍です。ノズル2は空気を取り込みませんが噴霧粒径は慣行ノズルの約3倍と大きく、慣行ノズルに比べてドリフトを低減できます。さらにノズル2の噴霧する角度を進行方向に対して後方に15度傾けることで、ノズル1と異なる方向に噴霧するようにしてあります。 これらノズル1とノズル2を交互に配置することにより、隣り合うノズルから噴霧した薬液同士の衝突を避けて薬液の到達性を確保し、さらに薬液が到達するタイミングをずらして、葉面への付着性能を高めることができました。
  • このノズルを用いて、長野県果樹試験場のわい化栽培りんご園で、ドリフト低減効果試験と付着性能試験を行いました。その結果ドリフト低減効果について、ドリフト低減ノズルは慣行ノズルに比べて、同じ距離で最大1/10程度にドリフトが低減することを確認しました(図4)。さらに、付着性能は、慣行ノズルと概ね同等の性能であることを確認しました(図5)。なお、山形県農業総合研究センターにおいても、同様な傾向の試験結果を確認しています。
  • また、平成21年5月~9月に青森県産業技術センターのわい化栽培りんご園において体系的な防除作業と平成21年6月と8月に岩手県農業研究センターのわい化栽培りんご園においてドリフト低減ノズルを用いた防除効果試験を行い、(表2)慣行作業と同じ方法(農薬の種類、希釈倍率、散布量)で使用した場合、対象作物、病害虫および作業方法等が同じであれば、概ね慣行ノズルと同等の防除効果が期待できることを確認しました。引き続き、平成22年度も青森県では体系的な防除作業による防除効果試験を行いました。
  • 棚栽培及び高樹高の慣行栽培りんご等に使用する大風量のSSにおけるドリフト低減効果は未確認ですので、本ノズルは当面わい化栽培の果樹用SSに適用可能です。

今後の予定・期待

ドリフト低減ノズルは、ドリフト低減効果、付着性能、防除効果について十分な結果を得ることができました。また、取扱性等の実作業上も問題ないと考えられたことから、平成23年度市販化に向けてメーカーと準備を進めているところです。

図1 ドリフト低減ノズル、図2 ドリフト低減ノズルの装着状況、図3 噴霧形状の違い

表1 ドリフト低減ノズルの主な仕様

図4 ドリフト低減効果試験結果、図5 付着性試験結果(長野県)

表2 わい化栽培りんご園における防除効果
1)ノズル1と2を交互に配列してスピードスプレヤー(最大風量600m3/min、タンク容量600L)に装着 2)単位(頭/葉) 3)現地慣行機+現地慣行ノズル使用 4)発病葉率(%) 5)発病果率(%) 6)ハマキムシ類、アブラムシ類、キンモンホソガ、ギンモンハモグリ、マメコガネ、モモシンクイガ等