プレスリリース
トラクタ後輪用の除泥装置を開発

- タイヤに付着した泥を除去し、 道路への落下土汚染を軽減 -

情報公開日:2013年2月12日 (火曜日)

ポイント

  • 洗浄水や圧縮空気を使わない機械式除泥法で、ロータリ作業機を装着したままでトラクタに常設可能
  • 土埃などによる環境汚染を防止するとともに土壌病害の拡散低減等に貢献
  • 路上落下土の清掃、回収作業を軽減して、軽労化、省力化に寄与

概要

農研機構 生研センターでは、この度、後輪タイヤに付着した土壌を強制的に除去し、ほ場外への耕作土の持ち出しを最小限に抑えることで路上への落下土汚染を軽減できる、軽量・コンパクトな除泥装置を開発しました。

これは、湿潤状態のほ場でトラクタに付着した土壌がほ場間移動などの際に路上に落下・飛散し、地域の環境汚染、交通障害および土壌病害の拡散となっている問題に対処するためです。

本装置は、トラクタの作業機取り付け部(オートヒッチ)のフレームに後付け可能な?き取り方式であり、作業終了後のほ場退出時にトラクタを前進させながら後輪タイヤに付着した泥をタイヤの自転を利用して掻き落とす仕組みです。本装置の使用/解除の切り替えは、運転席から着脱操作レバーを用いて容易に行うことができます。


関連情報

予算:運営費交付金

特許:特願2012-079774


詳細情報

開発の背景と経緯

  • トラクタ耕うん作業やコンバイン収穫作業等をはじめ、作業機や走行部に付着した土壌がほ場間移動などの際に路上に散乱することで、道路を通行する車両の交通安全上の問題となる他に、自然風や車両の風圧によって土埃の原因となり地域の環境汚染となっている点が従来から指摘されています。また、畑作においては、風化土壌に混在する病原菌の拡散を防ぐ対策が課題となっている地域もあります。近年では地方自治体の環境美化条例によって、農業機械のタイヤ等に付着した土、汚泥、家畜排泄物等が走行中に道路及びその周辺に落下した際には原因者(市民等および事業者)に対して、清掃を行い原状回復に努める義務を課しているところもあります。
  • 全国の地方公共団体(47都道府県1153市区町村)及び農業者(45道府県700名)を対象に行ったアンケート調査(2010年生研センター)によれば、市民等から道路汚染被害の苦情・相談を受けたことが「有る」という自治体が全体の18%(207団体)でした。また、泥を路上に落下させた経験のある農業者は全体の94%(656人)であり、このうち9%が「清掃する暇がない」「面倒臭い」等を理由に「全く清掃したことがない」という回答でした。また、自治体側からは「原状回復を巡って原因者と通報者の調整や対処に苦慮した」、さらに農業者側からは「機械的な方法で、清掃しなくても泥が落とせる仕組みが必要」といった意見が寄せられました。
  • そこで、平成22年度から、トラクタのタイヤに付着した士壌をほ場内作業終了後のほ場退出時などに強制的に除去することによって、ほ場内からの土壌の持ち出しを最小限に抑えて路面の汚染を軽減できる除泥装置の開発に着手しました。今年度までに、ロータリ耕うん作業を前提としたトラクタオートヒッチ装着型除泥装置を試作し、市販の各種タイヤを用いて付着土壌量の半分以上を掻き落とせる効果を確認しました。

開発機の概要

  • 本装置はトラクタのオートヒッチのフレームに装着するスクレーパ方式であり、作業後のほ場退出時に本装置を使用できるほか、ロータリ耕うん作業を行いながら除泥することが可能です。外部動力や水、空圧による洗浄方式でないため、使用場所を限定しない省エネ方法です。なお、トラクタ後進時は装置の構造上、除泥操作ができません。
  • 装置は、メインフレーム、コイルバネ式スクレーパ、着脱操作レバー等から構成され(図1)、農用タイヤのラグ形状に合わせた掻き取り爪(低摩擦かつ耐摩耗性のある樹脂製)をスクレーパ先端に装着しています。
  • 運転席から着脱操作レバーを操作することにより、本装置の使用/解除を容易に切り替えることができます。本装置のスクレーパをタイヤ表面に作用させた状態でトラクタを前進させると、スクレーパがタイヤ表面のラグ形状に沿いながら追従し、表面に付着した土壌を掻き落とします。また、サイドスクレーパがタイヤ側面を追従することで、タイヤ側面に付着した土壌を掻き落とします。
  • 土性の異なる土壌(壌土:L、シルト質埴土:SiC)における除泥率(排土した土壌量/付着した土壌量×100)は、壌土では60%以上、シルト質埴土では50%前後の結果が得られています(表)。
  • タイヤに十分な泥が付着した状態で本装置を作用させた後に路上走行した場合、本装置がない場合と比較して、土壌落下量の低減(試験の結果:6回走行の平均で後輪1本につき約38kg低減)が期待できます(図2)。

今後の予定

実用化に向けて、さらに小型軽量化し除泥率と耐久性を向上させた低価格な装置にすることが課題となります。本装置は、車輪式のトラクタを対象とした後輪専用装置であり、例えば前車軸やフロントウェイト基部等の機体前方部位を利用した固定方法に変更する等により、前輪の除泥に対しても同構造のスクレーパ方式による掻き取り機構の応用は可能と考えます。一方、近年普及が著しい半履帯式トラクタへの適用については、コンバインの走行部と同様に履帯内側や転輪部への泥付着の割合が大きいため、除泥装置の基本構造を変える必要があります。基礎研究に続き、今後、実用化に向けて別の応用研究課題を計画して行く予定です。

用語の説明

  • オートヒッチ:トラクタ後部にある3点リンク油圧装置に、作業機の着脱を容易にするための、規格化された中間連結治具。クイックヒッチとも言う。
  • スクレーパ先端の掻き取り爪:低摩擦、高耐摩耗性の素材が好ましい。金属材料としては、鉄、アルミニウム、ステンレスなどが挙げられるが、試作機には、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン,polyetheretherketone)材等の熱可塑性樹脂を採用。

図1 試作機の概要(2号機)表 除泥性能の一例