プレスリリース
所要動力が小さい新脱穀選別機構を開発

- コンバインのエンジンの小型化、機体のコンパクト化に期待 -

情報公開日:2015年4月14日 (火曜日)

ポイント

  • 脱穀所要動力が小さく、わらくずの発生が少ない脱穀選別機構を開発しました。
  • 開発した脱穀選別機構を搭載することで、エンジンの小型化、コンバインの構造の簡素化や機体のコンパクト化が可能になります。

概要

農研機構生研センターでは、脱穀所要動力が小さく、わらくずの発生が少ない脱穀選別機構を開発しました。

開発した脱穀選別機構は、こぎ胴の回転軸を鉛直方向(縦置き)に配置してコンパクト化した脱穀部と、揺動選別部などを大幅に簡素化した選別部とで構成され、ウレタンゴム製のこぎ歯により櫛(くし)ですく様に脱穀することを特徴としています。

新機構の脱穀所要動力は従来機の1/4程度と極めて小さいことから、本機構に置き換えることで、これまでと同等の性能を維持しながら、エンジンの小型化、機体のコンパクト化などが図られたコンバインの開発が見込めます。さらに、わらくずの発生が少ないため、揺動選別機構と二番オーガが不要となり、中山間地域対応自脱型コンバインに適用した今回の例では、部品数を200点程度削減でき、機構の簡素化も期待されます。

今後、選別損失を低減するとともに、コンバイン機体の形状、こぎ胴の配置、選別部の構造等を検討し、早期の実用化を図っていく予定です。

関連情報

予算:運営費交付金

特許:特許第5531254号

詳細情報

開発の背景と経

自脱コンバインは水稲や麦の穂先のみを脱穀することから、作業速度が速く、収穫物へのゴミの混入が少ない等の特徴があります。しかし、自脱コンバインの脱穀部・選別部は複雑な構造のため、価格を安くできない要因の一つとなっています。また、作業の高能率化を図るために搭載するエンジンの高馬力化が図られる傾向にありますが、エンジンの高馬力化は機体価格の押し上げ要因となります。

そこで、コンバインの脱穀所要動力の低減と構造の簡素化を目的に、くし状のこぎ歯を備えたこぎ胴を持つ脱穀選別機構を開発しました。

内容・意義

【自脱コンバインの脱穀選別機構(従来の機構)】

自脱コンバインの脱穀部は、直径5~6mmの太さの鋼線でできた逆V字型のこぎ歯、回転軸が進行方向と平行になるように設置されているこぎ胴等で構成されています(図1)。また、選別部は、揺動選別装置、一番オーガ、二番オーガ等から構成されています。受け網から漏下した混合物は揺動選別装置でふるい分けられ、単粒は一番オーガ、枝梗付着粒や穂切れ粒は二番オーガに落下します。一番オーガに落下した穀粒はタンクに搬送され、二番オーガに落下した穀粒は脱穀部等に戻され再度処理されます。

【くし状のこぎ歯を備えたこぎ胴を持つ脱穀選別機構(開発した機構)】

開発した脱穀部の構造的な特徴は、くしですく様に脱穀するウレタンゴム製のこぎ歯、回転軸が鉛直方向(縦置き)に配置されているこぎ胴です(図2)。こぎ歯はひし形の突起部と円弧状の谷部とから構成されており、前方から供給された作物に対し穂首から穂先に向け穂をすく様に作用し脱穀します。この脱穀部は、穂切れ粒の発生割合が多くなるものの、脱穀所要動力が小さく、わらくずの発生が少ない等の特長があります。

そこで、選別部は、二番還元および揺動選別機構がない構造としました。また、従来の自脱コンバインでは二番オーガであった部位を穂切れ粒を処理するための単粒化処理機構に改造しました(図3)。単粒化処理機構は、不連続スクリュおよび先端に掻き込みピンを持つ撹拌棒を備えたスクリュオーガ、抵抗板、天板等から構成されています。スクリュを不連続にすることや撹拌棒の先に書き込みピンを付けることによって、スクリュ上に堆積しやすい長いわらくずや穂切れ粒等の処理性能を向上させました。

【開発した脱穀選別機構の性能】

開発した脱穀選別機構を中山間地域対応自脱型コンバインに適用した場合、作業速度0.4m/sで、こぎ残し損失1%程度、発生わら量4%程度(一般的な自脱コンバインのこぎ残し損失3%未満、発生わら量5~10%)で収穫することができました(図4、表)。また、脱穀所要動力はエンジン出力の1割程度(一般的な自脱コンバインでは4割程度)でした。単粒割合は91%程度(一般的な自脱コンバインでは90%以上)で、損傷粒は0.1%でした。ただし、既存の自脱コンバインに適用したことから、選別損失は7%程度発生しました(一般的な自脱コンバインでは3%未満)。以上、開発したくし状のこぎ歯を備えたこぎ胴を持つ脱穀部および単粒化処理機構を備えた選別部については実用に供しうる脱穀性能および単粒化処理性能があると判断しました。

今後の予定・期待

開発した脱穀選別機構に置き換えることで、これまでと同等の性能を維持しながら、エンジンの小型化、機体のコンパクト化などが図られたコンバインの開発が見込めます。さらに、わらくずの発生が少ないため、揺動選別機構と二番オーガが不要となり、中山間地域対応自脱型コンバインに適用した今回の例では、部品数を200点程度削減でき、機構の簡素化も期待されます。

今回の中山間地域対応自脱型コンバインに適応した場合には、選別損失が多く発生しました。今後は、選別損失を低減するとともに、コンバイン機体の形状、こぎ胴の配置、選別部の構造等を検討し、早期の実用化を図っていく予定です。

用語の解説

オーガ : スクリュ型の搬送装置。

図1 現在市販されている自脱型コンバインの脱穀部

図2 くし状のこぎ歯を備えたこぎ胴を持つ脱穀選別機構(開発機)

図3 単粒化処理機構

図4 中山間地域対応自脱型コンバインに適用した脱穀選別機構

表 開発した機構の性能