プレスリリース
焼酎醸造特性が優れ大粒で多収の二条大麦新品種「煌二条」を開発

情報公開日:2008年5月20日 (火曜日)

(独)農業・食品産業技術総合研究機構(略称:農研機構)九州沖縄農業研究センターでは、九州地域での焼酎醸造用原料の生産拡大に向けて、焼酎醸造用の二 条大麦品種「煌二条」を育成しました。本品種は、焼酎醸造適性が良く焼酎の酒質に特徴があり優れます。また、千粒重と整粒歩合が大きく整粒収量が高く、オ オムギ縞萎縮病ウイルスのI、III型系統に強く、穂発芽性が難であることから、麦焼酎の醸造原料として九州地域で生産が可能です。

本品種により、焼酎醸造会社から増産が要望されている二条大麦の作付け拡大が進むことが期待されます。


詳細情報

背景とねらい

大麦の需要拡大に伴い、焼酎用二条大麦についても供給不足によるミスマッチを招いています。また、九州の焼酎醸造会社では、特徴のある商品開発や焼酎原料の確保のため、新たな焼酎用二条大麦品種の開発と、大麦主産地である北部九州での生産拡大を要望しています。

そこで、既存品種の「ニシノチカラ」等と比較して、近年発生が拡大しているオオムギ縞萎縮病ウイルスIII型系統に強く、焼酎醸造適性や収量性が同等以上の二条大麦品種を育成しました。

 

成果の内容・特徴

「煌二条」は、多収、短稈、良質、縞萎縮病抵抗性を育種目標として、「西海皮48 号/羽系 89-63」の交配から育成した焼酎醸造用二条大麦品種です。「ニシノチカラ」と比較して、次のような特徴があります(表1、2)。

  • 播性はI、茎立性はやや早の春播性で、出穂期で4 日、成熟期で2 日程度早い早生種です。
  • 稈長と穂長は短く、穂数は同程度かやや多く、耐倒伏性は同程度で強い。
  • 千粒重は大きく整粒歩合が高く、子実収量は同程度であるが整粒収量は多い。
  • 容積重はやや大きいが、ふ色がやや淡黄褐で側面裂皮がやや多く外観品質はやや劣ります。
  • オオムギ縞萎縮病ウイルスのI型とIII型系統に強く、赤かび病とうどんこ病にはやや弱い。穂発芽性は難で穂発芽しにくい。
  • 搗精時間は短く軟質で精麦白度は同程度であるが、欠損粒歩合はやや大きい。
  • アルコール収得歩合は同程度かやや高く、焼酎醸造適性は良い。焼酎の酒質に旨味や甘味などの特徴があり優れます。
  • 栽培適地は、暖地・温暖地の平坦地に適し、麦焼酎醸造用原料として佐賀県で普及予定です。

品種の名前の由来

煌めくような酒質を持った麦焼酎の原料となる二条大麦の意から命名しました。

表1 生育特性

 

表2 品質特性

 

写真1 「煌二条」の草姿

 

写真2 「煌二条」の穂と穀粒

 

写真3 「煌二条」の登熟期の草姿(佐賀県、2007 年5 月)

用語説明

精麦加工適性(白度、欠損粒率)
大麦を焼酎醸造原料に利用する場合、搗精により穀皮や糊粉層を取り除き精
麦にします。この精麦のしやすさに係る品質を精麦加工適性と言います。焼酎
原料としては、胚乳が柔らかく軟質で澱粉含量が高いこと、穀皮や糊粉層が均
一に搗精され精麦の「白度(白さ)」が高いこと、搗精により胚乳が砕ける割合
である「欠損粒率」が低く均一な精麦の歩留が大きいことが求められます。

 

焼酎醸造適性
麦焼酎の醸造は、麦麹を加水・加熱し酵母を加えて1次もろみを作り、さら
に麦などの澱粉原料と酵母を加えて2次もろみを作り、麹菌による糖化(澱粉
をブドウ糖へ分解)とアルコール発酵を行った後に蒸留します。この醸造工程
では、麹原料の消化性や糖化性、さらに最終的にはアルコール収得率(アルコ
ール発酵の良否と収量)や味・香りなどの官能品質が良いことが求められ、こ
れらを総じて焼酎醸造適性と言います。

 

容積重
原麦品質の指標の1つで、穀粒の充実度合いを1リットル当たりの重量で示
すものです。二条皮麦では、通常は700g以上の値となるが、登熟不良や倒伏
などにより粒の充実が悪い場合は700g以下となり、精麦品質や澱粉含量等の
醸造品質も低くなる傾向があります。

 

オオムギ縞萎縮病
赤かび病やうどんこ病と並ぶ大麦の重要病害の1つ。糸状菌により媒介され
る土壌伝染性のウイルス病で、薬剤防除が困難なことから抵抗性品種の作付け
が重要です。このウイルスの病原性は変異し易く、九州においても従来から発
生しているウイルス系統(I型)に加え最近では、III型が発生し始めています。

 

穂発芽性
立毛中の成熟期に子実が発芽する特性。穂発芽すると胚乳の分解が進むため、
精麦品質等が著しく低下する。ニシノホシなどの穂発芽性はやや易で穂発芽性
に対する抵抗性が弱いため、成熟期の長雨により穂発芽する危険性があるが、
煌二条の穂発芽性は難であり穂発芽の危険性は極めて少ないです。