プレスリリース
高品質・多収の二条大麦新品種「白妙二条(しらたえにじょう)」

- ポリフェノールが極めて少なく褐変しない新たな大麦食材を開発 -

情報公開日:2009年10月30日 (金曜日)

ポイント

  • 加熱後に褐変をほとんど起こさない主食用大麦の新品種です。
  • 早生、短稈、縞萎縮病とうどんこ病に複合抵抗性で多収であり精麦品質も優れます。

概要

独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センターでは、褐変の原因となるポリフェノールが極めて少なく、炊飯後にほとんど褐変せず色相が極めて優れた二条大麦新品種「白妙二条」を育成しました。昨年より北部九州で試作を開始し、本年から本格生産が始まる予定です。

関連情報

予算

農林水産省委託事業「先端技術を活用した農林水産研究高度化事業(平成16~19年度)」

品種登録出願

出願番号「第23483号」

種苗についてのお問い合わせ

業務推進室 電話 096-242-7536


詳細情報

開発の社会的背景と研究の経緯

国産の食用大麦は需要に対して生産が追いついていません。精麦業界は生産拡大を切望していますが、小麦と比べ収益性が低いことなどから生産拡大は進んでいません。一方、大麦は良質な食物繊維であるβ-グルカン等の機能性成分を豊富に含んだ穀物であり、生活習慣病の改善のため、その摂取が奨励されています。しかし、これまでの大麦品種はポリフェノール類を多量に含み加熱後に褐変する欠点があり、麦飯のみならずレトルト食品や大麦粉等の食材としても需要拡大の大きな妨げとなっていました。

(研究の)経緯

加熱後褐変の原因にはポリフェノール類が関係すると考えられたので、大麦のポリフェノール合成を抑制する突然変異遺伝子のプロアントシアニジンフリー遺伝子12種を主要品種の「ニシノホシ」にそれぞれ導入した系統を作成しました。その結果、プロアントシアニジンフリー遺伝子の中でもant28遺伝子が加熱後褐変をほとんど起こさず、精麦品質や収量性にも悪影響をもたらさないことを明らかにしました。そこで、ant28遺伝子を「ニシノホシ」に導入した系統を用い、加熱後褐変の原因であるポリフェノール類の含量が極めて低く品質や収量性が高い食用品種の開発を進めました。

(研究の)内容・意義

「白妙二条」は、プロアントシアニジンフリー遺伝子の導入による極低ポリフェノール化を育種目標として、ant28を持つ「泉系A133-3(「ニシノホシ」/ant28-494)」に、「ニシノホシ」を2回交雑して育成した食用の二条大麦品種です。「ニシノホシ」と比較して次のような特徴があります。

  • 褐変に影響する精麦のプロアントシアニジンの含量は「ニシノホシ」の約1割で、加熱後に褐変をほとんど起こさず、麦飯等の色相評価が極めて高く優れています(写真1)。
  • 精麦の白度は高く、やや硬質のため搗精(とうせい)時間はやや長いですが、砕粒率は低く、精麦品質は「ニシノホシ」と同程度に優れます。
  • 春播性の早生種で、やや短稈で穂数が多く耐倒伏性はやや強で、外観品質と収量も同程度で生育特性は「ニシノホシ」に類似しています(写真2、3)。
  • 病害抵抗性も「ニシノホシ」と同等で、うどんこ病には極強、赤かび病にはやや強、オオムギ縞萎縮病ウイルスのI型系統 には抵抗性を示しますがIII型系統にはかかり易いです。また、「ニシノホシ」に比べやや穂発芽し易いです。「白妙二条」の栽培特性や病害抵抗性は「ニシ ノホシ」と同等であり、「ニシノホシ」と同じ栽培管理により温暖地から暖地の平坦部で栽培できます。なお、穂発芽し易いため、刈り遅れしないように注意する必要があります。

今後の予定・期待

「白妙二条」は北部九州で栽培が始まっており、加熱後褐変を起こさない麦飯に加え、大麦粉やレトルト食品等の新しい付加価値を持つ食材としての利用が期待されます。さらに、「白妙二条」を始めとする国産大麦は輸入麦に比べ精麦品質が優れることから、大麦生産の収益性向上と生産振興が期待されています。

参考データ

写真 1

白妙二条 ニシノホシ ニシノチカラ


白妙二条 ニシノホシ
55%精麦の加熱後褐変
95°Cで1時間加熱した後、70°C20時間保温後の褐変

写真2

株、穂及び粒
左:白妙二条 中:ニシノホシ 右:ニシノチカラ

写真3

白妙二条 ニシノホシ ニシノチカラ
成熟期の草姿
(九州沖縄農業研究センター筑後研究拠点、生産力検定試験圃場、2007年5月)

用語解説

加熱後褐変
麦飯などに用いる大麦の精麦は、炊飯後、時間が経つにつれて次第に褐変します。褐変の原因は大麦の種皮に含まれるポリフェノール類が加熱により酸化するためと考えられています。大麦を搗精した精麦では大部分の種皮は除かれますが、条溝(穀粒の縦溝)には種皮が残り、そこから溶け出したポリフェノール類が褐変の原因となります。

プロアントシアニジン
植物に含まれるポリフェノール類としてフラボノイド、アントシアニジン、カテキンなどがありますが、アントシアニジンやカテキン及 びそれらが重合した物質を総称しプロアントシアニジンと言います。大麦穀粒の種皮はプロアントシアニジンを多量に含み、加熱後褐変の原因となります。大麦のプロアントシアニジンを含むポリフェノール類の合成を制御する突然変異遺伝子としてプロアントシアニジンフリー遺伝子が30種類あり、その中の12種類 の遺伝子が加熱後褐変に大きく影響するプロアントシアニジンの生成に関わっています。

搗精と精麦品質(白度、砕粒率)
大麦原粒の穀皮や糊粉層を取り除くことを搗精といいます.大麦を食用に利用する場合、搗精により精麦に加工します。この時の精麦への加工適性を精麦品質と言います。食用原料としては、糊粉層や胚乳が柔らかく軟質で搗精時間が長すぎず、穀皮や糊粉層が均一に搗精され精麦の「白度(白さ)」が高いこと、搗精により胚乳が砕ける割合である「砕粒率」が低く、砕けない精麦の歩留が高いことが求められます。

オオムギ縞萎縮病
赤かび病やうどんこ病と並ぶ大麦の重要病害の1つ。菌により媒介される土壌伝染性のウイルス病で、薬剤防除が困難なことから抵抗性品種の作付けが重要です。このウイルスの病原性は変異し易く、九州においても従来から発生しているウイルス系統(I型)に加え最近では、III型の発生が増えつつあります。

穂発芽性
収穫前の成熟期の降雨により子実が穂に付いたまま発芽する特性。穂発芽すると胚乳の分解が進むため、精麦品質等が低下します。「ニシノホシ」などはやや穂発芽し易いため、成熟期の長雨により穂発芽する危険性があります。

春播(はるまき)性
麦類は冬季に低温に遭うことにより花芽分化が起こる秋播性品種と、低温を必要としない春播性品種があります。寒地で春に播種する場合は低温を必要としない春播性品種を用い、寒冷地から寒地で秋播きする場合は冬季の低温による凍害を避けるため秋播性品種を栽培します。しかし、秋播性に比べ春播性品種は基本的に早生であることから、日本の暖地では春播性品種を晩秋に播種し梅雨前に収穫します。