プレスリリース
九州に適した栽培しやすい酒米新品種「吟のさと」を育成

- 九州沖縄農業研究センター開発品種の紹介 -

情報公開日:2007年10月 3日 (水曜日)

「吟のさと」は晩生の酒米品種です。酒米品種としては短稈で倒れにくく栽培しやすい、九州に適した品種です。心白の発現率が高く外観品質が良好で、吟醸酒の麹米に向く酒米として北部九州での普及が見込まれています。福岡県内の酒造会社で吟醸酒の商品化テストを行ったところ、醸造適性が良好で特徴のある酒質を示すことが明らかになりました。
なお、この研究の一部は、農林水産省農林水産技術会議事務局の委託プロジェクト研究「低コストで質の良い加工・業務用農産物の安定供給技術の開発」により実施したものです。


詳細情報

1.育成のねらい

北部九州は伝統的に清酒の生産が盛んな地域です。
そこで、地域の特色を出した清酒を作るために地場産の高品質で低コストの原料米が求められていました。
同地域で以前から作付けされている「レイホウ」「ニシホマレ」は、栽培しやすく収量も安定しているため低コストの掛け米として根強い需要がありますが、高度精米が求められる吟醸酒の麹米用には適しません。
また、代表的な高品質の酒米品種「山田錦」は、草丈が高く倒れやすいため九州での栽培が難しい品種です。
そこで、栽培しやすく、吟醸酒の麹米としても用いることのできる高品質の酒米品種の育成に取り組みました。

 

2.来歴の概要

「吟のさと」は1996年に九州農業試験場水田利用部(現 九州沖縄農業研究センター筑後研究拠点)において、多収、良質の酒米の育成を目標に、極良質の酒米品種「山田錦」に、多収、良質の酒米系統「西海222号」を人工交配し、選抜して育成した品種です。
父親の「西海222号」も「山田錦」の子供なので、「山田錦」の特性を色濃く受け継いでいる品種と言えます。

 

3.命名の由来

地域に根ざした吟醸酒用酒米になる願いを込めて、品種名を「吟のさと」と命名し、種苗法に基づく品種登録申請を行いました。

 

4.新品種の特徴

  • 出穂期、成熟期は、「山田錦」より1日程度遅く、九州では「晩生の早」熟期です。
  • 稈長は「山田錦」より20cm程度短く「レイホウ」と同じくらいです。
    • このため「山田錦」よりも倒れにくく栽培しやすい品種です。また、収量も「山田錦」より多収です。
  • 玄米の大きさは「山田錦」と同じくらいの大粒で、玄米の見かけの品質は心白がはっきりと出ていて「山田錦」並に良好です。
    • 酒造特性(タンパク質含有率、吸水性)は「山田錦」に近い良好な数値を示しています。
  • 吟のさと」の清酒の官能評価(利き酒)の結果は、「山田錦」の清酒並に良好です。

5.今後の展開(普及の見通し)

福岡県八女市の酒造会社で製品化が予定されています。
八女筑後地域をはじめとする九州のその他の酒造会社にもPRをしていく予定です。

 

参考データ

吟のさとの系譜図

 

表1

 

表2

 

写真1

 

写真2

 

用語解説

心白:
米の中心に生じる白色不透明な部分を指します。
食用米に生じる心白は検査等級を下げる要因となり望ましくありませんが、酒米では、心白が生じることによって麹菌の繁殖や吸水性が良好になるため、心白発現率の高い品種が求められます。
また、心白の形状も重視され、「山田錦」のような「線状」の心白を持つ米が高度精白に向くので良いとされています。
「吟のさと」の心白形状は山田錦に近い線状です。

吸水性:
酒米の吸水性は、浸漬時の吸水速度(20分浸潰後の吸水率)と最大吸水量(120分間浸漬後の吸水率)で示されます。
最大吸水量には品種による大きな開きはありませんが、吸水速度は品種間で大きな開きがあり、一般に酒造好適米で大きいとされています