プレスリリース
西日本でも夏秋季に安定生産できる、 四季成り性イチゴ新品種「夏の輝」を育成

情報公開日:2014年7月11日 (金曜日)

ポイント

  • 暖地の夏から秋にかけて、安定して実る「四季成り性」1)のイチゴの新品種を育成しました。
  • 糖酸比2)が高く、食味も優れています。またイチゴの主な病害にも強く、作りやすい品種です。
  • 植物工場での作付け体系に組み入れることで、周年生産が可能となります。

概要

    • 農研機構九州沖縄農業研究センターは、暖地の夏から秋の気象条件下でも連続的に開花・結実する性質を持ち、夏秋どり栽培3)に適したイチゴ新品種「夏の輝(なつのかがやき)」を育成しました。
    • 果実の糖度が高く、8月から10月の収穫量が安定して多いのが特長です。また、イチゴの主要な病害である萎黄病(いおうびょう)4)に強く、うどんこ病5)炭疽病(たんそびょう)6)にもある程度強く、作りやすい品種です。
    • 植物工場での作付け体系に通常の促成栽培用の一季成り性品種(いっきなりせいひんしゅ)1)と組合せ導入することで、周年のイチゴ生産が可能となります。農研機構と契約を結んだ種苗会社より近日中に種苗の供給が行われる予定です。

写真 収穫開始期の「夏の輝」の植物体(左)及び果実(右)

関連情報

予算:運営費交付金、農林水産省委託プロジェクト「農作業の軽労化に向けた農業自動化・アシストシステムの開発」(2010~2012年度)」

品種登録出願番号:「第28314号」


詳細情報

品種開発の背景

わが国の夏秋季のイチゴは、業務用として安定した需要がありますが、この時期には良質な国産果実の供給量が少なく、大部分を輸入に依存しています。

これは、イチゴ生産の主力となっている一季成り性品種は夏~秋の栽培には適さないことが原因です。この時期のイチゴ生産を行うためには、比較的高温(20°C前後)で昼間の時間が長い(長日)条件でも花芽(つぼみ)ができる四季成り性品種の栽培が必要です。

しかしながら、現在、栽培されている四季成り性品種は、暖地や温暖地では秋季の収量低下等の問題があり、気温の比較的低い高標高地であっても、安定生産ができませんでした。このため、暖地や温暖地でも夏秋どり栽培に適した四季成り性の優良品種の育成が望まれていました。

育成した品種「夏の輝」の特性

    • 「夏の輝」は、暖地の夏から秋の高温・長日条件下でも連続的に開花・結実する性質を持ち、夏秋どり栽培に適します。
    • 夏季でも旺盛な生育を示し、既存の四季なり性品種と比較すると、商品となる果実の収量(商品果収量)は「サマーベリー」7)より多く、特に秋季(8月~10月)の商品果収量が多い特徴があります(図1)。
    • 果実の甘さを示す糖度は「サマーベリー」と同程度でやや高く、酸度はやや低く、糖酸比は高く、香りは中、食味は良好です(表1)。果実の硬さ(硬度)は「サマーベリー」と同程度です(表1)。
    • 萎黄病に対しては強度の抵抗性、うどんこ病に対しては中程度の抵抗性、炭疽病に対しては「とよのか」と同程度の中程度抵抗性を示し(表2)、減農薬栽培も可能と考えられます。
    • パッドアンドファン冷却8)やクラウン(株元の短縮茎)部温度管理技術など高度な環境制御を導入した太陽光利用型植物工場における栽培体系に、本品種を用いた夏秋どり栽培と一季成り性品種を用いた促成栽培(冬~春に収穫)を組み合わせることで、周年栽培も可能となります(図2)。

今後の普及見込み

現在、新潟県、岡山県等で試験栽培が行われています。夏から秋にかけて連続して開花・結実する特性を有し、収量性と果実品質にも優れることから、全国の夏秋どり品種の栽培地で普及が見込まれます。農研機構と利用許諾契約を結んだ種苗会社により種苗の増殖が行われており、近日中に種苗の供給が行われる予定です。

図1 「夏の輝」の雨よけ栽培および植物工場栽培における商品果収量

表1 「夏の輝」の夏秋どり栽培における果実品質

表2 「夏の輝」の病害抵抗性

図2 植物工場における促成栽培と夏秋どり栽培を組み合わせた周年生産体系

用語解説

1)一季成り性品種と四季成り性品種:
イチゴの品種は、花芽ができる条件により、一季成り性品種と四季成り性品種に大別されます。一季成り性品種は低温かつ日の長さが短い(短日)条件で花芽が着き、四季成り性品種は20°C前後の比較的高温かつ日の長さが長い(長日)条件で花芽が着きます。

2)糖酸比:
糖度を滴定酸度で除した値のことで、おいしさを説明する指標の一つです。糖酸比が高いほど、濃厚な味になります。

3)夏秋どり栽培:
主に四季成り性品種を用いて、夏秋季に収穫する作型で、夏季に気温が比較的低い寒冷地や高冷地で栽培が行われています。越冬させた苗を3月下旬~4月下旬に定植し、6~11月に収穫します。

4)萎黄病(いおうびょう):
イチゴ栽培において最も重要な土壌病害です。被害株は果実の肥大が悪く、品質は低下し、ひどくなると枯死してしまいます。日本の主要栽培品種には耐病性品種がなく、いったん土壌が菌に汚染されると根絶することが難しい病害です。

萎黄病

5)うどんこ病:
ハウス栽培で特に被害の著しい病害です。発病によって株全体が枯死することはありませんが、果実に発生すると商品価値が失われるので経済的な被害が大きい病害です。日本の主要な品種には耐病性品種がないので、防除は農薬に頼っているのが現状です。

うどんこ病

6)炭疽病(たんそびょう):
イチゴ栽培における最も重大な病害の一つです。6月~9月の育苗期に発生して深刻な苗不足の原因となるばかりでなく、本圃においても株の枯死を引き起こします。日本の主要栽培品種は本病に抵抗性を持たないため、発生すると大きな被害を受けます。

炭疽病

7)サマーベリー:
1988年に育成された四季成り性品種。四季成り性が強くないため、夏秋どり栽培では生産が不安定になる傾向があります。

8)パッドアンドファン冷却
温室内の温度を下げる技術の一つで、外気を湿らせたパッド(格子状パネル)を通すことで、気化冷却された空気を温室内に送り込み、室温を低下させます。