背景・ねらい
脂質代謝異常は肥満、糖尿病・脳血管障害、心臓疾患など生活習慣病を引き起こす大きな原因となることから、食品成分により脂質代謝を改善することはこれら疾病の予防・治療の観点から重要である。ゴマ種子にはリグナンと総称される化合物(図1)がかなりの量含まれている。この中で、セサミンには抗酸化作用、抗ガン作用、アルコール代謝の促進、血清脂質濃度低下作用などの様々な生理作用があることが知られてきた。本研究ではセサミンの脂質代謝改善作用の発現機構をラットを用いた動物実験により分子レベルで明確にした。さらに農業研究センターにおいて育種開発されたセサミン強化ゴマが在来種と比較し、より優れた脂質代謝改善能を有することをも明らかにした。
成果の内容・特徴
肝臓の脂肪酸代謝系(脂肪酸酸化と脂肪酸合成系)の変化は肝臓で合成される主要なリポタンパク質である極低密度リポタンパク質の生成・分泌を変化させ、血清脂質濃度に影響を与える大きな要因であることから、セサミンがこれら代謝系に与える影響を調べた。脂肪酸酸化系は細胞内でミトコンドリアとペルオキシゾームと呼ばれる部位に存在する。セサミンはラット肝臓において両者の脂肪酸酸化活性を量依存的に上昇させ(図2)、強力な脂肪酸酸化誘導作用を有することが明らかとなった。
また、セサミンは脂肪酸合成、ピルビン酸キナーゼ等、脂肪酸合成系諸酵素の活性を抑える作用も併せ持つことも示された(図3)。
酵素の遺伝子発現および転写因子の動態の解析から、セサミンは脂肪酸酸化系酵素の遺伝子発現を調節する転写因子、ペルオキシゾーム誘導剤活性化受容体(PPAR)の活性化因子として働き脂肪酸酸化活性を上昇させること、また脂肪酸合成系酵素の遺伝子発現を調節する転写因子、ステロール調節エレメント結合蛋白質 1(SREBP 1)の遺伝子発現低下と活性化抑制を通して脂肪酸合成を抑制することが明らかとなった(図4)。このような代謝変化がセサミンの血清脂質濃度低下作用の原因となっていると思われる。
以上のように、セサミンは転写因子の活性化・抑制を通して脂質代謝系酵素の遺伝子発現を変化させ、脂質代謝改善能を示すことが明白となった。
さらに、農業研究センターで開発されたセサミン強化ゴマが在来種と比較し、脂質代謝にどのような影響を与えるかを追究した。
セサミン強化ゴマは多収量(しかしリグナン含量は低い)ゴマ系統TOYAMA016とリグナン含量の高い(しかし収量は低い)H65を交配し、選抜によって開発された。セサミン強化ゴマ(0730と0732)の収量は在来種(真瀬金)と同等であるが、セサミン・セサモリン含量は約2倍の値を示す(図5)。
このセサミン強化ゴマのラットへの投与は在来種と比較し、ラット肝臓の脂肪酸酸化活性を大きく上昇させ、また血清中性脂肪濃度の低下を引き起こした。このことから、セサミン強化ゴマが在来種と比較しより強い脂質代謝改善機能を持つことが確かめられた。
今後の課題
ヒトに対する効果の確認、食品への応用、セサミン強化ゴマの普及