プレスリリース
海外から導入した植物遺伝資源(育種用素材)の活用促進に向けた連携について

情報公開日:2016年7月 8日 (金曜日)

ポイント

  • 農研機構遺伝資源センターでは、アジア諸国との二国間共同研究協定を締結し、有用な海外植物遺伝資源(育種用素材)の探索や国内導入に力を注いでいます(「PGRAsia(ピージーアール アジア)プロジェクト」という。)。
  • 平成28年6月に締結した、(一社)日本種苗協会と共同研究協定により、野菜の重要病害虫に関する耐病性検定等を協会会員の民間種苗会社と分担・協力して進めることで、海外植物遺伝資源の育種用素材としての利活用を加速化させます。

概要

  • 農研機構遺伝資源センターでは、国内の大学や公設試験場等の協力を得て、海外から導入した植物遺伝資源の遺伝特性の評価活動等を実施しています。また、ベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマー及びネパールの5カ国の研究機関とPGRAsiaプロジェクトにより、新規の海外植物遺伝資源の探索・導入を進めています(別紙1)。
  • 本プロジェクトでは、野菜の重要病害虫に対して強い抵抗性を示す等、これまで国内には存在しない新たな植物遺伝資源が発見され、今後の育種用素材としての活用が期待されています。
  • 平成28年6月に締結した、農研機構遺伝資源センターと(一社)日本種苗協会間での共同研究協定により、海外から導入した野菜等植物遺伝資源の病害虫抵抗性に関する耐病性検定を実施します。また、育種用素材としての種子の増殖などを、日本種苗協会会員の企業が分担・協力して実施します。
  • 本プロジェクトの研究成果を、平成28年7月12日(火)にヒューリック浅草橋(東京都台東区)にて発表します(別紙2)。

背景

今後の地球温暖化問題への対応や、「攻め」の農政を展開するための画期的な新品種を開発していくには、その育種用素材として多様な遺伝特性を有する海外植物遺伝資源の確保が必要です。
農研機構遺伝資源センターでは、センターバンクとして国内外から約22万点(世界第5位の保有数)の植物遺伝資源を収集・保存し、育種用素材として、国内の種苗会社や公設試験場等に供給してきましたが、今後、温暖化の進展等の様々な問題に対処していくためには、さらに耐暑性や新規病害虫への抵抗性等を有する新規植物遺伝資源の獲得が不可欠な状況となっています。
また、最近では、途上国を中心に遺伝資源に対する権利意識が高まっており、海外から新たな植物遺伝資源を導入することが年々難しくなりつつあります。
こうした情勢を踏まえ、農研機構遺伝資源センターでは、平成25年に締結された「食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約(ITPGRFA)」の枠組みの下、条約締約国のジーンバンクに所蔵された植物遺伝資源の相互利用を推進するとともに、平成26年度からは農林水産省委託プロジェクト研究「海外植物遺伝資源の収集・提供強化(PGRAsiaプロジェクト)」を受託し、ベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマー及びネパールの5カ国と二国間共同研究協定を締結し、海外の新たな植物遺伝資源の導入やそれら遺伝特性の解明等に取り組んできました。

経緯

農研機構遺伝資源センターでは、種苗業界等の現場ニーズをPGRAsiaプロジェクトに反映させるため、定期的に公開シンポジウム等を開催し、プロジェクトの進捗状況等を御説明してきましたが、業界関係者等からは「海外の探索調査により民間ニーズを反映できる仕掛けにして欲しい」、「導入した遺伝資源を速やかに育種素材として利用したい」等の要望が寄せられていました。
しかし、農研機構遺伝資源センターでは、遺伝特性を評価するための場所や要員の確保などに制約があり、それらの要望にスピード感を持って対応することが難しい状況にあります。こうした状況を受け、特に国内の種苗業界の関心が高い野菜等の品目を対象として、(一社)日本種苗協会がとりまとめ窓口となり、関心のある民間種苗会社の方々に、PGRAsiaプロジェクト等で得られた海外遺伝資源の遺伝特性の評価や有望な種子の増殖などを分担・協力していただくこととしました。

内容・意義

温暖化の影響による新規病害虫の発生など、農作物の育種改良の加速化が求められる中、その素材となる植物遺伝資源の遺伝特性(耐病性)の解明に国内の公的研究部門と民間企業とが連携して当たることにより、新品種の早期開発が期待されます。
また、PGRAsiaプロジェクトによる二国間共同研究の推進により、アジア諸国との信頼関係が構築され、遺伝資源の相互利用に向けたネットワークが形成されていくことが期待されます。

今後の予定・期待

農研機構遺伝資源センターは、今後、ITPGRFAの枠組み(多数国間制度)の活用やアジア諸国とのPGRAsiaプロジェクトを推進し、植物遺伝資源の相互利用に向けた国際ネットワークの構築を目指します。加えて、国内の種苗業界や公設試験場等に対してそれら多様な植物遺伝資源(育種用素材)を円滑に供給し、国内の育種改良に一層貢献します。