ポイント
化粧品原料等の安全性を評価するための眼刺激性試験法が新たに経済協力開発機構(OECD)の定めた統一的な試験法に収載されました。この試験法は、角膜構造を模した培養モデルに化学物質を滴下した後、電気抵抗値の変化を3分間測定するだけで、化学物質の刺激性を判定できます。今後、実験動物を用いない簡便かつ迅速な試験法として、安全性の高い化粧品等の開発に活用されると期待されます。
概要
農研機構(理事長:久間 和生)が、国立医薬品食品衛生研究所(所長:奥田 晴宏、以下「国立衛研」)、関東化学株式会社(社長:野澤 学)と共同で開発してきた、動物を使用せずに化学物質の眼に対する刺激性を判定する試験法「Vitrigel-Eye Irritancy Test(Vitrigel-EIT) 法1)」が、国際的な公定法である経済協力開発機構(OECD)の定めた統一的な試験法(OECDテストガイドライン2))に収載されました。
化粧品や医薬品等を開発する際には、これらの成分として含まれる化学物質のヒトに対する安全性を確認する必要があります。このような「安全性試験」の多くは動物を用いて行われてきましたが、近年、動物を使用しないヒト細胞を利用した動物実験代替法の開発が世界的に進められています。
生体内の細胞の周囲にあるコラーゲン線維は、細胞の足場として組織を構成する骨組みの役割を果たしています。農研機構では、多細胞から構成される組織を再生する際に生体内の組織で細胞を保持している足場に注目して、この足場に匹敵する高密度コラーゲン線維網の新素材「コラーゲンビトリゲル3)」を利用した製品等の開発を進めています。2013年に、この素材を利用して構築したヒト角膜上皮の培養モデルを用いて、眼に対する化学物質の高感度な安全性試験法(Vitrigel-EIT法)を開発しました。実験動物を用いずに、迅速かつ高感度で再現性の高い試験結果が得られるのが特長です。
開発したVitrigel-EIT法について、国内3施設(一般財団法人食品薬品安全センター秦野研究所、株式会社ボゾリサーチセンター、株式会社ダイセル)でバリデーション研究4)を実施し、その妥当性について検証しました。その後、専門家による第三者機関の審査を経て、2019年6月に本試験法がOECDテストガイドラインに収載されました。今後、実験動物を用いずに簡便かつ迅速に安全性を判断できる試験法として、国内外で安全性の高い化粧品等の開発に活用されると期待されます。
関連情報
予算:農林水産省「アグリ・ヘルス実用化研究促進プロジェクト(医薬品作物、医療用素材等の開発)」(No. 6320)特許:特許第5892611号、特許第5933223号