プレスリリース
糯(もち)で多収の水稲新品種「もちだわら」を育成

- 米菓等加工用として反収800kg以上が期待できる中晩生品種 -

情報公開日:2010年12月10日 (金曜日)

ポイント

  • 10アール当たり800kg以上の高収量が期待できる糯(もち)の水稲新品種「もちだわら」を育成しました。
  • 関東以西において、米菓等加工用としての利用が期待されます。

概要

独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構(略称:農研機構)作物研究所は、糯(もち)で多収の水稲品種「もちだわら」を育成しました。

「もちだわら」は、「北陸糯181号」と「北陸193号」を交配して育成したもち品種です。一穂籾数が多く、これまでのもち品種としては最も収量性が高いと考えられる「おどろきもち」より15%程度、ほぼ同じ熟期の一般的なうるち品種「日本晴」に比べると30%程度の多収であり、10アール当たり800kg以上の高収量が期待されます。

「もちだわら」は、栽培適地である関東以西の地域において、米菓や業務用の餅原料としての利用が期待されます。また、米粉等への新規需要米としての利用についても、用途開発が期待されます。

「もちだわら」は、農林水産省委託プロジェクト「低コストで質の良い加工・業務用農産物の安定供給技術の開発」の成果で、平成22年3月に種苗法に基づく品種登録出願を行いました(出願番号:第24699号)。


詳細情報

研究の内容・意義

1.開発の経過

「もちだわら」は、もちの多収系統「北陸糯181号」とうるちの多収品種「北陸193号」を交雑して育成しました。

2.特徴

  1. 育成地における出穂期は、「日本晴」よりやや早く、「おどろきもち」とよりやや遅い“中生の早”、成熟期は「日本晴」より遅い“晩生の早”熟期に属します(表1)。
  2. 稈長は「おどろきもち」より長く、「日本晴」並です。穂数が少なく、一穂籾数が多い草型です(表1、写真1、写真2、写真3)。
  3. 耐倒伏性は極めて強く、多肥栽培で多収となります(表2、表3)。育成地での玄米収量は、「日本晴」に対して30%程度、「おどろきもち」に対して15%程度多収です(表2)。関東以西の試験地で10アール当たり800kg以上の多収事例が確認されています(表3)。
  4. 玄米の外観品質は、「おどろきもち」より劣る“中下”です(表2、写真4)。餅の食味は、「おどろきもち」より優れる“中中”です。冷蔵後の餅は「おどろきもち」と同程度に硬化しやすいことから、あられなどの米菓に加工しやすいと考えられます(表2)。
  5. いもち病に対しては、特殊な真性抵抗性遺伝子を持ち、通常は発病がみられませんが、病原菌のレースによって病害が発生することがあり注意が必要です。白葉枯病に対しては“中”程度の抵抗性を有し、縞葉枯病に対しては“抵抗性”です。穂発芽性は“難”です(表4)。
  6. 一般品種と比較して、幼苗期の低温により退色がみられる、種子の休眠性が強い、セジロウンカに対する抵抗性が弱い、やや脱粒しやすいなどの特徴がありますので、栽培に当たって留意が必要です。

3.名前の由来

多収のもち品種で、俵が山のように積まれる豊作を願って命名しました。

研究の内容・意義

  1. 「もちだわら」は、玄米収量が高いことから、茨城県などで米菓や業務用の餅原料として利用が計画されています。
  2. また、新規の米粉用製品への利用やもち品種作付地帯などにおける飼料用米としての利用も期待されます。
  3. 栽培適地は、関東以西の温暖地、暖地の平坦地を中心とする地帯です。

表1.生育特性

表2.収量・品質

表3.配付先における多収事例

表4.耐性・耐病性

写真1.もちだわらの草姿
( 左から もちだわら おどろきもち 日本晴 )

写真2.もちだわらの穂

写真3.もちだわらの圃場での草姿
(左 おどろきもち、右 もちだわら)

写真4.もちだわらの籾および玄米
(左 もちだわら、中央 おどろきもち、右 日本晴)

用語の解説

一穂籾数
1本のイネの穂に形成される籾の数のことです。収量構成要素のひとつで、品種による差が大きい重要な遺伝的特性であります。穂数と一穂籾数には一般に負の相関があり、穂数の多い穂数型品種の一穂籾数は少なく、穂数が少ない穂重型品種では多い傾向があります。
玄米の外観品質
うるち玄米の等級検査(農産物検査)において、精米に関わる形質として、整粒の多少、皮部の厚薄、充実度、粒揃い、光沢などの要素をもとに評価されています。糯(もち)玄米の検査においては、これらに加えて、白度(米の白さ)が重要な形質として評価されています。
真性抵抗性
植物が病原菌の侵入自体を防ぐ抵抗性のことです。一方、病原菌の侵入後、病気の進行をある程度に抑える抵抗性のことを圃場抵抗性と言います。真性抵抗性を持つ品種が大面積に栽培されると、それを侵害する病原菌のレースが出現し、真性抵抗性が無効になることが知られています。
レース
いもち病菌などには、形態的には区別できないものの、宿主によって病原性が異なる個体群(菌系統)が存在します。このうち、品種によって病原性を異にする菌系統をレースといいます。