プレスリリース
サツマイモの消費拡大が期待される おいしいサツマイモ新品種を育成

- 食べきりサイズの青果用品種「ひめあやか」干しいも加工用品種「ほしキラリ」 -

情報公開日:2009年10月 2日 (金曜日)

ポイント

  • 食べきりサイズでおいしいサツマイモ品種「ひめあやか」を育成。
  • 干しいも(蒸切干)の食味・外観が優れるサツマイモ品種「ほしキラリ」を育成。
  • 特徴ある両品種の育成により、サツマイモの消費拡大が期待できます。

概 要

独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構(略称:農研機構)作物研究所は、サツマイモの消費拡大が期待できる、食べきりサイズでおいしいサツマイモ品種「ひめあやか」と、食味・外観の良い干しいも(蒸切干)ができるサツマイモ品種「ほしキラリ」を育成しました。

「ひめあやか」は、調理後の食感がしっとりとしていて、肉色は鮮やかな黄色です。家庭で利用しやすいサイズのおいしいサツマイモとして、青果販売や、高品質の焼きいも、お菓子等への利用が期待されます。

「ほしキラリ」は、干しいもとしての外観や食味に優れる一方、品質を低下させるシロタ(いもの一部が白く硬化する)が、ほとんど発生しません。高品質な干しいもの製造に適した品種として普及が期待されます。


詳細情報

開発の背景

サツマイモは子供の好きな野菜の一つであり、現代人に不足しがちなビタミンや食物繊維が多く含まれるなど、栄養的にも優れた作物です。しかし、サツマイモの食料としての消費量は、現在1人当り年間約5kgと減少傾向で、家庭での購入量は1人当り年間1kgをきる状況となっています。消費者からは、従来のいもでは大きすぎて食べきれない等、家庭で利用しにくいとの指摘もあります。

サツマイモの消費、特に家庭内消費の拡大には、食味が良いことのほか、手軽に食べられる、扱いやすいといったことや、いもや製品の外観などに特徴があることが必要です。また、手軽に食べられるサツマイモ加工食品である干しいもは、近年は外国産の輸入が増加し、国産干しいもの品質向上が急務となっています。そこで、「おいしい、便利、きれい」をコンセプトに、サツマイモの品種改良に取り組みました。

その結果、青果用では、食べきりサイズで利用しやすく、鮮やかな黄色がきれいでおいしい「ひめあやか」を、干しいも加工用では干しいもの外観がきれいでおいしい「ほしキラリ」を育成しました。

「ひめあやか」

研究の内容・意義

  • 「ひめあやか」の開発経過
  • 「ひめあやか」は、いもがやや小さく食味が優れる「九州127号」を母、つる割病と立枯病に強く食味が優れる「関系91」を父とする交配組合せから育成した青果用品種です(写真1)。交配採種は1998年に九州農業試験場(現九州沖縄農業研究センター)で実施し、翌1999年以降10年間をかけて作物研究所において選抜・育成を行いました。

  • 「ひめあやか」の特徴と名前の由来
  • 1)いもの大きさは、青果用の主力品種「ベニアズマ」や「高系14号」の6割ほどの重さで140g程度と小さく、いも収量は両品種に比べて少ないですが、食べきりサイズの200g以下のいも収量は多くなります(写真1、図1、表1)。
    2)蒸しいもや焼きいもにすると、肉質がやや粘質のため食感はしっとりとしていて、食味が優れます(図2-a、表1)。また、小さないもも良食味です(図2-b、表1)。
    3)「ベニアズマ」や「高系14号」に比べて調理後の黒変が少なく、肉色は鮮やかできれいな黄色です(写真2)。
    4)立枯病、つる割病及び黒斑病への抵抗性はやや強で、「ベニアズマ」や「高系14号」よりも病害に強いです(表1)。
    5)いもが小さく、焼きいもや蒸しいもの肉色の彩りが鮮やかであることから「ひめあやか」と命名しました。

今後の予定・期待

  • 栽培適地は全国のサツマイモ栽培地域です。現在、埼玉県で有望視されており、作物研究所と埼玉 県農林総合研究センター園芸研究所では「ひめあやか」の普及に向けた協定研究を実施中です。埼玉県農林総合研究センター園芸研究所は、県産サツマイモのイ メージアップ、生産拡大を図るため、本品種の栽培技術開発や商品開発に取り組んでおり、高付加価値サツマイモとしての普及が期待されています。
  • 近年は、柔らかい食感を持つやや粘質のサツマイモが好まれており、主力品種で粉質の「ベニアズマ」とは違った食感のおいしいサツマイモとして品種の多様化 が可能となります。また、食べきりサイズのいもや、良食味といった特徴を生かした販売方法を確立することにより、これまで規格外として扱われてきた小さな いもまで利用できるようになります。
  • 家庭で利用しやすいサイズで、色がきれいでおいしいサツマイモとして、青果販売や、高品質の焼きいも、お菓子等への利用により、サツマイモの消費拡大が期待されます。
  • 平成21年2月23日に品種登録出願(出願番号:第23497号)を行い、平成21年4月22日に品種登録出願公表されました。今後、利用許諾契約を締結した民間種苗会社を通じて種苗が販売される予定です。

写真1.「ひめあやか」のいも
株のようす
写真1.「ひめあやか」のいも

各品種の平均的大きさのいも
各品種の平均的大きさのいも

写真2.「ひめあやか」の焼きいもの外観・切断面
写真2.「ひめあやか」の焼きいもの外観・切断面

切断面は、左から「ひめあやか」、「ベニアズマ」「高系14号」
切断面は、左から「ひめあやか」、「ベニアズマ」「高系14号」

図1 規格別のいも重量

図2 焼きいもアンケートによる評価

表1 「ひめあやか」の収量、食味、病害虫抵抗性

 

「ほしキラリ」

研究の内容・意義

  • 「ほしキラリ」の開発経過
  • 「ほしキラリ」は、多収でいもの外観が優れる「関系112」を母、でん粉の糊化温度がやや低い「九州127号」を父とする交配組合せから育成した加工用品種です(写真3)。交配採種は2001年に九州沖縄農業研究センターで実施し、翌2002年以降7年間をかけて作物研究所において選抜・育成を行いました。

  • 「ほしキラリ」の特徴と名前の由来
  • 1)干しいもの食味は「上」で、主力品種の「タマユタカ」より優れ、良食味品種の「泉13号」並みまたはより優れています(表2)。
    2)干しいも(蒸切干)の肉色はきれいな淡黄で、外観が優れます(写真4)。
    3)「タマユタカ」は干しいもにシロタと呼ばれる品質障害が発生しやすいですが、「ほしキラリ」はシロタがほとんど発生しません(写真4、表2)。
    4)でん粉の糊化温度が、「タマユタカ」、「泉13号」等の従来品種よりも5~6°C程度低いので、蒸煮時のでん粉の糖化が進みやすく、干しいもの糖度が高くなります(表2)。
    5)いも収量は「タマユタカ」の6割程度と少ないですが、「泉13号」より多収です(表3)。サツマイモネコブセンチュウ抵抗性及びつる割病抵抗性が「タマユタカ」より優れます(表3)。
    6)干しいも用で、干しいもの食味と品質が非常に良いことから「ほしキラリ」と命名しました。

今後の予定・期待

  • 栽培適地は全国のサツマイモ栽培地域です。現在、茨城県で有望視され、栽培試験及び干しいも品質調査を継続して行っており、高品質な干しいもの製造に適したサツマイモとして普及が期待されています。
  • 干しいもの色がきれいでおいしい「ほしキラリ」の登場により、干しいもの消費拡大が期待されます。
  • 平成21年2月23日に品種登録出願(出願番号:第23498号)を行い、平成21年4月22日に品種登録出願公表されました。今後、利用許諾契約を締結した民間種苗会社を通じて種苗が販売される予定です。

写真3
「ほしキラリ」のいも


「タマユタカ」のいも
写真3.

写真4
「ほしキラリ」の干しいも(蒸切干) 「タマユタカ」の干しいも(下はシロタの発生した干しいも)
写真4.

表2

表3

用語の解説

シロタ
干しいも(蒸切干)の一部分が白く硬化し、商品価値(外観、食味とも)が低下する品質障害。中白(なかじろ)などとも呼ばれる。でん粉の糖化・糊化不足が主な原因と考えられている。

糊化温度
水とでん粉の混合液を加熱した際、液が粘性を増して糊になり始める温度。でん粉の構造や原料植物によって異なることが知られている。糊状になったでん粉は、糖化酵素(β-アミラーゼ)により麦芽糖に分解される。