要約
今回、ダイズの主要な病虫害であるダイズシストセンチュウ、ハスモンヨトウ、ジャガイモヒゲナガアブラムシやダイズモザイクウイルスのそれぞれに対する抵抗性を容易に判別できる実用的なDNAマーカーを開発しました。この成果は、独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構が推進する農林水産省委託プロジェクト研究「有用遺伝子活用のための植物(イネ)・動物ゲノム研究―DNAマーカーによる効率的な新品種育成システムの開発」(略称、「DNAマーカー」プロジェクト)のダイズチームにより、新しい育種手法であるDNAマーカー選抜技術を利用して得られたものです。
今後、これらのマーカーを目印にして、いろいろな病虫害に対して抵抗性のダイズ品種を短期間で開発することができると期待されます。
ダイズ栽培では地域や栽培法によって様々な病害虫の攻撃にさらされます。特に、ダイズシストセンチュウ、ハスモンヨトウ、ジャガイモヒゲナガアブラムシやダイズモザイクウイルスに対して、既存のほとんどの品種は抵抗性が不十分なため、収量や品質の著しい低下をこうむってきました。
病虫害抵抗性のダイズ品種を育成するためには、従来から、害虫の食害や発病程度の観察を通して、被害の少ないダイズを選んで行く育種方法が行われています。しかし、その年の天候等によって病害虫の発生が不安定なため、抵抗性の評価に長い年月と多くの労力がかかるなどの問題があります。国産ダイズの安定生産のために、病害虫への抵抗性品種の開発が強く要望されており、新しい育種方法を用いた育種の加速が望まれています。
近年の分子遺伝学の発達により、新しい抵抗性品種を育種する方法として、染色体上の特定の遺伝子配列を目印(DNAマーカー*)にして、発病程度を見なくとも、実験室内でダイズ個体のDNAを分析するだけで抵抗性遺伝子の有無を推定し、抵抗性のダイズを選抜することが可能となりました。
ダイズシストセンチュウ抵抗性では4つの抵抗性遺伝子(rhg1、rhg2、rhg3、Rhg4)、ハスモンヨトウ抵抗性では2つの遺伝子(qCCW-1、qCCW-2)、ジャガイモヒゲナガアブラムシ抵抗性では1つの遺伝子(Raso1)、ダイズモザイクウイルス抵抗性では3つの遺伝子(RsvB、RsvC、RsvD)について、それぞれに目印となるDNAマーカーを設定することに成功しました。
これからのダイズ育種では、これらのマーカーを目印にして、いろいろな病害に対して抵抗性のダイズ品種を短期間で開発することができると期待されます。戻し交配育種では3年程度育成期間を短縮することが可能で、検定圃場の使用面積は十分の一以下になります。
*DNAマーカー
同じ生物種であっても多数の個体を比べるとゲノム中の塩基配列中の特定部分に違いが存在する。この塩基の違いを検出する標識(マーカー)のこと。